熱中症にはご用心 

2016/08/15
先日、人生初の熱中症になった時に思い浮かんだお話です。
ありがちなネタですみません💦。

あかねちゃんの知らないところで乱馬は独占欲が強そうだなーという想像と希望的観測が
おまけ的に続いています(*‘ω‘ *)。

(にしてもこのタイトルセンス…The・昭和感がすごい💦)

+ + + + +



「あ、いたいた」



乱馬の姿を見つけてあかねが声を上げたのは、昼食を食べてしばらくしてのことだった。
季節は夏。
盆を来週に控え、真上に昇った太陽は庭の土もカラカラに干からびるほど容赦ない陽射しを降り注いでいる。
暑い。
暑い。
天気予報に並ぶ数字をを観ても分かる通り、ここ数年の異常気象と言われる天候はもはや当たり前のものとなりつつあり、この日も例に漏れずうだるような猛暑日だった。
こうしてほんの1、2分外に出るだけでも途端に肌をヒリヒリと焼くような痛みが襲ってくる。
そんな立っていることもままならないような暑さの中、自宅から道場に続く渡り廊下と道場の建物そのものに面した"くの字型"の庭に、その姿はあった。



「乱馬」

とっくにあかねの気配に気付いているのに、こちらを見ようとしないその背中に声を掛けてみる。
が、返事はない。

「ねえ、乱馬ってば」

もう一度名前を呼ぶと、渋々というように漸く返事をした。
が、その声は分かりやすいくらい不機嫌で、イライラを隠そうとはしていない。

「…なんだよ」
「なんだよ、じゃないわよ。さっきから呼んでるのに無視しちゃって」
「別に無視したわけじゃねーよ」
「ウソ。あんたが周りの気配に気付かないはずないじゃない」
「…るせえな。こっちはせっかく集中して稽古してんだ。邪魔すんな」

そう言うとあかねに背を向けたまま近くに積んであるコンクリートブロックに手を伸ばす。
なるほど、足元にはいくつものブロックの破片が散っている。が、その砕けた形跡からもいつもの乱馬ではない様子が伺えた。



「…ねえ。なんで怒ってるの?」
「…」
「あたし、なんかした?」
「…」

乱馬からの返事はない。
あかねは地面に散らばった灰色の破片に目を落としながら小さく溜め息をつく。



(まったく…なにをそんなに怒ってるのよ)

意地になったようにこちらを向こうとしない乱馬の背中を見ながら、今日あったことをもう一度思い返してみる。


朝ご飯の時はいつも通りだったわよね。
相変わらずおじ様とおかずの取り合いをして、もつれるように二人で池に落ちてパンダと女の子に変身して…。
いい歳した中年男性と青年がパンダや美少女に変身してしまうこと自体 当たり前で済ませるのもおかしな話だが、実際この家では見慣れた光景なのだから仕方ない。
その後 男に戻った乱馬が夏休みの課題を写しにという…という表向きの口実であたしの部屋のクーラーで涼みに来た時も普通だったでしょ。
それから……そうだ!久し振りにPちゃんが帰って来たんだわ。
締めきった窓からブイブイと鼻でノックしてあたしの部屋の中に入ってきたPちゃん。
窓の外にPちゃんの姿を見つけた時は「お、迷子のP助、久しぶりだなぁ」なんて乱馬も笑っていたのに、あたしがPちゃんを抱き締めた途端、突然機嫌が悪くなった……気もする。
でもあたしがPちゃんを抱っこするなんてことは今までも当たり前だったし、それが原因だなんてまさか、ねぇ。

その後も乱馬の眉間のシワはどんどん深くなるばかり。お昼ご飯の材料の買い出しをかすみお姉ちゃんに頼まれた時も「おめーみたいな鈍くさい奴の帰りを待ってたら日が暮れちまう」と随分な悪態をついて出て行ってしまったっけ。
もちろん、こんな暑い日にあたしの代わりにお遣いに行ってくれたことはありがたい。
ありがたいけれど、そこにあたしに対する優しさがあったかと言われればそれもなんだか違う気がした。


結局、あかねの代わりにかすみのお使いを済ませて帰って来た乱馬に礼を言っても返事はなく。昼食時も隣同士に座っているのに一言も口を利かないとなれば、乱馬が何かに対して気分を害していることは間違いなかった。
だが、こうも突然に不機嫌な態度を取られても、あかねにはこれといって思い当たる節は無い。
怒りの心当たりがないので当然どうすることも出来ず、昼食後は自分の部屋でモヤモヤとしていたのだ。
が、それも時間が経つと、今度は段々腹が立ってくる。

(なによ…あたしが何をしたっていうのよ)

結局、一人で部屋でグジグジ考えていても埒が明かない。
そんなわけであかねは直接怒っている理由を聞くべく乱馬の姿を探していたのだ。






乾いた土の上に散乱したブロック片の塊を一つ手に取ってあかねが呟く。

「……気が荒れてるね」
「は?」
「乱馬の気。いつもだったらあんた、芯を捉えるように出来るだけ粉砕しない形にこだわるでしょ」
「…」
「なのに今日は全部バラバラの欠片になってるもん」
「…るせーな」
「こういう時の乱馬って、何か怒ったり悩んだりしている時なのよね」
「なんでんなこと分かるんだよ?」
「そりゃ、いつも見てたらそのくらい分かるわよ」

さも何でもないことのように答えるあかね。


「ねえ、何かあるんなら言ってよ。このままじゃ、なんか気持ち悪いじゃない」
「気持ち悪いって、おめーなぁ」

そう言うと初めて乱馬があかねの方を振り向いた。
その額は試合後のボクサーのように前髪まで汗でぐっしょりと濡れ、顎から伝った汗が地面に落ちて黒い染みを作る。

「すごい汗ね」
「まあな」

そういうあかねも道場裏の日陰に立っているとはいえ、既に鼻の頭や鎖骨の上にぽつぽつと玉のような汗が浮かび上がっている。
肩の上で結ぶタイプのレースがあしらわれた白いノースリーブに、同じくセットアップになった白いショートパンツ。学校の制服と違い、肩も背中も剥き出しになって一見涼しげだが、それでもこの猛暑の前ではひとたまりもない。
薄い綿素材のチュニックはびたりと背中に張り付き、肩の頭がほんのりと赤くなっていた。
本来ならばふわりとしたシルエットの服が汗で図らずもあかねの上半身のラインを拾い、思わず乱馬の心臓がドキリと跳ねる。




「…おめーさ」

乱馬が何かを言いかけたのと同時に、それに気付かずあかねが口を開いた。

「もしかして、さっきのPちゃんのことで怒ってるの?」
「な、なんでおれがあんなブタに…っ!」
「そうよね。まさかあんたがこんなかわいくない女にヤキモチなんて妬くわけないもんね」

内心動揺を隠しきれない乱馬の台詞を言葉通りを受け止めたあかねがいつも通り受け流す。

「じゃあ、なんでそんなに機嫌が悪いのよ」
「……言いたくねえ」


というより、言えるわけがなかった。
本当はあかねがそんな薄着でP助を抱き締めているのが気にくわないなんて。

勝手だとか、男の嫉妬は見苦しいとかそんなことを言われたとしても、その相手がブタだろうが人間の姿の良牙だろうが 嫌なものは嫌だ。
いつまでもブタの姿を利用してちゃっかりあかねの胸で甘える良牙は今度こそ仕留めてやる。が、そもそもブタに関わらずあかねは自分以外の男に対してスキがあり過ぎるんじゃないのか?
それに加えてこの暑さ。
下手に口を開いたら、ぼんやりとした頭で情けない本音を全て吐き出してしまいそうだった。
けれど自分がこんなみっともないヤキモチを妬いているだなんて知れたら、これからどんな顔をしてあかねに接すればいいのだろう?

そんな乱馬の複雑な胸中など、あかねは知る由もない。
そしてなにを思ったのか、更にとんでもないことを言い出した。


「ねえ、ちょっと思ったんだけど」
「なんだよ」
「もしかしてあんた、自分よりあたしにPちゃんがなついてるのが悔しいの?」
「……は?」

やれやれといった様子で近くにある大きな石にあかねが腰掛ける。

「だってあんた、毎回Pちゃんのことを邪険にするわりには いつもPちゃんの動向を気にしてるじゃない。だから本当は愛情の裏返しでPちゃんのことが好きでたまらないのかなーって」
「あ、あほかっおめーは!」

一体全体なにをどうしたらそんな発想になるというのか。

「あのね、乱馬?Pちゃんは人間じゃなくてブタなんだから、わかりやすく優しい態度で示してあげないと伝わらないのよ?」
「だからそんなんじゃねえっつーのっ!」
「素直じゃないわねー」

そう言って足を前に投げ出し、胸元を指でぱたぱた浮かせながら暑い暑いと手を団扇にして仰ぐ。
そんな無防備な仕草に、見えないと分かっていてもついついそちらに目を奪われてしまうのが悲しいかな男の性……。

あのなぁ、一応おれだって年頃の男なんだからな!?
ついでに言っとくと ブタの姿とはいえ、P助だってオスなんだからなっ!
こんな薄い布一枚隔てただけのあかねの胸にあのブタを抱きしめるなんざ、中身が良牙と知らないにしても許し難い。
おれだってそんなこと、してもらったことはないというのに……くっ。

ただ残念ながら、そんな乱馬の心の叫びはあかねには届かない。




その後も的外れな持論を並べているあかねだったが、勿論そんな話は聞いていない乱馬。
最初こそP助に対する怒りの方が大きかったが、あまりにも警戒心を持たないあかねに対して、今度はだんだん苛立ちが募ってくる。

いいか?
おれも含めて世の男はみんなオオカミなんだからな。もちろん、ブタの皮を被ったヤツも含めてだ!
そんな薄着でふらふらして誘うようなことばっかしやがって、まるで襲ってくれと言ってるようなもんじゃないか。
その気になったらおめーの抵抗なんて簡単に封じ込めれられちまうんだぞ。


『好きな女と一つ屋根の下』。


ただでさえ、甘い響きのあるこのシチュエーションで、通常は恋の障害ともなり得る両家の親からは公認の仲…いや、公認どころか 二人の関係を表す呼び名は許嫁ときてる。
はっきり言って17歳の健全な男子にとってはこの上なく恵まれつつ、この上なく理性と辛抱を強いられる環境でもあるのだ。
そんな状況で警戒心もなく目の前にご褒美をぶら下げられれば、流石の乱馬でも平常心ではいられなくなるわけで。
おそらく自分と同じであろうあかねの気持ちも薄々…いや、本当は充分すぎるほどに分かっているのだが、お互いの距離を縮めるきっかけが今日まで掴めないでいる。

(はあ…。近いようで遠いんだよなぁ……)






―と、全く別の所に心がある乱馬の適当な相槌に これ以上言っても無駄だと思ったのか、あかねが何気ない一言を呟いた。

「とにかく。稽古も大事だけどいつまでもこんな暑いところに居たら熱中症になっちゃうわよ」

だからそろそろ家の中に戻ろうということらしい。





(……今、なんつった?)


乱馬は足元に飛び散ったコンクリートブロックの欠片を拾い集めるふりをして、石の上に座ったあかねの傍にさり気なく近付く。
視界の隅に映る剥き出しの肩、そこから続いてなだらかに隆起する二つのふくらみと投げ出された白い足…。
思わず喉が鳴りそうになるのを堪えながら、乱馬がもう一度聞き返す。



「こんな暑いとなんだって?」
「だから、"熱中症になっちゃうよ"って言ったの」

あかねの口から出たその言葉を合図のように、乱馬はあかねの手を掴んだ。

「ちょ、ちょっと…」

乱馬の思っても見ない行動にあかねが一瞬にして顔を赤らめる。

「…何になるって?」

が、そんなあかねの様子などお構いなしというように、乱馬自身もしゃがみ込むと更に顔を近付けて聞き返す。



「だ、だから、"ね っ ち ゅ う し ょ う"って――」
「わかった」

そして今度こそゆっくり、はっきりと説明するあかねの言葉を待つと……そのまま有無を言わさずあかねの唇にキスをした。



「…ッ!」


突然のことに驚いたあかねが 真っ赤な顔をして乱馬の胸を反射的に押し返す。



「な、なに…っ!?」

が、乱馬はその手を両手で封じ込めると、悪びれた様子もなくひょうひょうと答える。

「なにって、おめーが言ったんだろうが」
「な、何言って…!あ、あたしはただ、熱中症になっちゃうって――」
「ほれ、また」

そう言うや否や、あかねの言葉を遮るようにもう一度キスをするとようやく掴んでいた両手を解放する。




「こんな昼間から『ね、チュウしよう』なんてあかねも大胆だよなぁ」
「な…っ!」
「だけどまあ、据え膳食わぬはなんとかって言うしさ」

勝手にキスまでしておいてなんて言い草だと思いながら、今頃になって襲ってくる猛烈な照れ臭さを堪えきれないといったようにあかねに背を向ける。
そのまま頭の後ろでいつものように腕を組むと、あかねの顔を見ないままに呟いた。

「大体、おめーは普段からスキがあり過ぎるんだよ」
「あ、あたしのどこが…っ」
「今だって簡単にキスなんかされやがって」
「それはあんたが勝手にしたんでしょうっ!?」


…ああ、もうこいつは全然わかってない。
ムキになって言い返してくるあかねの声を聞きながら、ここまでされても尚、自分に隙がないと思い込んでいるあかねに乱馬は溜め息をつきたくなってくる。
顔だけをあかねの方に向けちらりと洋服に視線を走らせると、ジトっと半目になりながら 口を尖らす。


「あのなあ、いくら暑いからってそんなあちこち見えそうな薄着でうろうろしてたら襲われても文句は言えねえんだぞ?」
「なんでよ。別に家の中だしいいじゃない」
「んなこと言っておめー、その恰好でかすみさんのお使いに行こうとしてたじゃねえか」
「あ、あれは、家の近くだったし!」
「ばーか。家の近所だろうとなんだろうと外には変わんねえっつーの」

そう言って不満そうな気配を隠さず声に出すと
「ちっとは自分が男にどう見られてんのか自覚しやがれ」
と吐き捨てた。


そうだよ。大体、家の中にだって一人 年頃の男が居るんだからな。
しかもあかねは知らないだろうが、そいつはおまえの一挙一動にいちいち心ときめかせているというおまけ付き。
それをはっきりと宣言するのは癪だが、いい加減 少しは自分の想いも分かって欲しい……。




そんな恥ずかしさを誤魔化すように 座ったまま立とうとしないあかねに声を掛ける。

「ほれ。暑いから家の中に入るんだろ?いーから立てよ」

が、ぶんぶんと首を横に振ってあかねはその場から動こうとしない。


「あの…先に戻ってて?」
「なんで?」
「な、なんでも…」

曖昧な返事をすると、そのまま乱馬から目を逸らす。



「…」

再びあかねの傍に近寄って、赤く染まった顔を下から乱馬が覗き込む。


「もしかして…立てねえのか?」
「ち、ちが…っ!」
「んじゃー家ん中に入ろうぜ。このまま外に居たらホントに…」


…ドクドクと。


「……本当に?」


お互い、妙な緊張感に包まれていくのを感じた。





「ホントに…」

「…」

「ホントに…………"脱水症状"になっちまう」


そんな空気を吹き飛ばすようにべーっと乱馬が舌を出す。
瞬間、これ以上無いというくらいに首まで真っ赤になったあかねの拳がドンドンと乱馬の胸を叩いた。


「も、もうっ!あんたってホント最低っ!」
「なんだよ、別に間違ったこと言ってないだろー。あ、それとももしかしてあかね、なんか違う言葉を期待してたのか?」
「…………知らないっ!」



…しまった。ちょっとからかい過ぎたか。
うっすらと目の前の瞳に浮かんだ涙に慌てて乱馬があかねの手を取る。

「じょ、冗談だよっ。いいから立てるか?」

両手であかねの身体を起こし、再び前を向くと片方の手だけは繋いだままでぼそりと呟く。




「…おれ以外の男の前であんま無防備になんなよ」


その声があかねに聞こえたかはわからない。
けれど、繋がれた手はあかねに振りほどかれることなく。
玄関の戸を潜るギリギリまでしっかりと握りしめられたままだった。




(熱中症だなんて…あんな風に聞こえちまう時点でおれの限界だよなぁ)

(あ、あれって……乱馬からキス、されたってことでいいんだよね?)


乱馬の顔もあかねの顔も、いつまでも赤かったのはきっと暑さのせいだけではない。
胸の内に疼いたアツい想いは どんなシロップでも敵わない甘さを伴って加速していく。


頭が
唇が
繋いだ手がじんじんと。

アツい。
暑い。
熱い…。


ちらりと。
乱馬を見上げる視線と、あかねを見下ろす視線が不意に交差する。
溶けるような暑さに少しだけ便乗した二人の影が、再び重なるまではもうあと少し ――。





* * *


乱馬が手早くサッとシャワーを済ませて居間に行くと、ちょうどP助が鼻を鳴らして縁側の廊下を歩いてくるのが見えた。
どうやら広い天道家の中で迷子になっていたらしい。ブタになっても方向音痴は相変わらずだ。
そんなP助、もとい良牙があかねの姿を見つけて嬉しそうに小走りしてくる。
そしてそのままピョンとあかねの膝に跳び乗る……すんでのところで乱馬の指が首に巻かれた黄色いバンダナを掴んだ。

「おっとPちゃん、そんな汚れた足でどこに行くのかな?」
「うそ。Pちゃん、汚れてる?」

乱馬の言葉にあかねが反応する。

「ほれ、ここ」
「あ、本当だ」

貴様、あかねさんの前で一体何を言おうとするのだ!
そんな良牙の叫びが聞こえてきそうな激しい前足キックが届かない所で持ち上げると、ニコリと。
この上なく爽やかな笑顔で乱馬が言う。

「知ってるか、あかね。ブタってすげえきれい好きな動物らしいぜ」
「へえ、そうなんだ」
「バンダナも薄汚れてきちまってるしさ。洗ってやるとするか」

そんな乱馬の横にはいつの間に用意したのか、ほかほかと湯気を立てるやかんが並んでいる。

「でも一体どういう風の吹きまわし?乱馬がそんなPちゃんに親切にするなんて」
「だってさっき、あかねが言ったんだろ?"Pちゃんはブタなんだから優しく態度で示してやらないと"って。あれを聞いておれも反省したんだよ」

その顔は怖いくらい満面の笑みを浮かべながら、標的を捉えてにじり寄る。

「"抱っこ"してやるからにはキレイにしてやらないとな。なぁ…Pちゃん?」
「良かったわね、Pちゃん。じゃ、早速……あっ、Pちゃん!どこ行くの!?せっかくきれいにしてあげるのに!」

あかねが微笑みかけた時にはもう遅かった。
がぶり!と。
乱馬の指先を渾身の力で一噛みすると、その後ろ姿は一瞬のうちに庭先を駆け抜けて見えなくなってしまった。

「せっかく会えたのにどうして…Pちゃん…」
「……ま、そのうちまた来んじゃねーの?」

痛ててててて…。
くっきりと歯型のついた指を振りながら、瞳を潤ますあかねに悪びれる様子もなく乱馬がとぼける。



(ふんっ。これに懲りたら二度とあかねの胸に抱かれようとなんて思わねえことだな)


一度自覚した独占欲はとどまることを知らないから恐ろしい。
この先、あかねの部屋で寛ぐPちゃんの姿を見た者はいない……(が、天道家の居間ではしょっちゅう目撃されている)。
これもまた、暑い夏の日の出来事なり。




< END >


♪ ロコローション / ORANGE RANGE



関連記事
comment (0) @ 高校生編 短編(日常)

   
1. 触れられない背中  | 13. あとがき 

comment

コメントを送る。

URL:
Comment:
Pass:
Secret: 管理者にだけ表示を許可する