週末の夜は 前編 

2016/10/25
こちらは揺れる金魚シリーズ【3.重なる指先】の少し前のお話になります。
(前作の【おやすみ】、【ご褒美ください】の後の時系列になります。)

全部で三部作となり、前編は健全ですが中編・後編に関しては大層はしたないことになっております。
それでも大丈夫!むしろ待っていた!という方のみ、お進みください。
また 元々はこちら前編のみのお話予定でしたので、何でもない二人の会話の中に今の関係性を楽しんでいただけると嬉しいです。
各お話ごとに異なる拍手のおまけを用意しています。
それでは…。

+ + + + +



「夜 あかねの会社の下で待ってるから」


こんなLINEが唐突に届いたのは、午後の温かい陽射しに眠気が襲う午後3時頃のことだった。




ギシ…と椅子のしなる音に混ざって「はあ…」と大きな息を一つ吐く。
昔は24時間、明々と照明の点きっぱなしだったオフィス内も 最近は厳しい監査のせいで出来るだけ早く退社を促されるようになった。
もちろん、きちんと申請をして終電ギリギリの電車に滑り込むことだって無いわけではないけれど、金曜日の広報部は取材に出たままお付き合いで帰って来られない人、諦めて翌日出勤をする人、そもそも"金曜日の夜は弾けるもの"として早々に帰宅する人…と、意外にも人影はまばらだ。
あたし自身、肝心の仕事はというとバッチリ終了!……とは残念ながらいかず、けれど取りあえずキリのいいところまでは終えたので あとは持ち帰って週末に家で片付けてしまおう。
そう考えて 会社に置きっぱなしにしてある頑丈な帆布のバッグにぼんぼんと資料を突っ込み、退社のIDカードをかざしたのが21:32―。


それにしても紙類ってどうしてこんなに重いんだろう。
せっかくこの前買ったばっかりのお気に入りのブラウスなのに シフォンにしわが付いちゃうな…そんなことを思いながら、オフィスのビルを出てキョロキョロしている時だった。


「おせーよ」

どこから現れたのか、少し待ちくたびれたように口を尖らせた乱馬がすぐ隣に立っていた。



「び、びっくりしたー!」
「なにが」
「あんた 海千拳で急に人の背後に立つのやめてよね!心臓に悪いんだからっ」
「んだよ。おめーがボーっとしてっからだろうが」
「ボーっとなんかしてないわよ。ただ 乱馬のこと探してただけ」
「せっかく久し振りに待ってたっつーのに一言目がそんな幽霊見たみてえな態度なんだもんなぁ」

そう。
実はつい先日まで乱馬は試合とその後の挨拶回りで家を空け、久々に顔を合わせたのは今朝のこと。こうして外で約束をして落ち合うのも 何だか久し振りだった。

「ったくかわいくねーの」。そんなことを言いながら、あたしの肩に掛かった鞄をひょいと奪うと「んで?なに食いに行く?」と当たり前のように聞いてくる。
こんなさりげなく優しさをみせるなんて、高校の時は思いもしなかったっけ。


「え?まだ乱馬 ご飯食べてないの?」
「あのなー。会う約束しといて俺だけ先に飯食ってたらおかしーだろーが」
「そうかもしれないけど、でもご飯に行くとは言ってなかったから」

それに大会前は食事の内容からその時間帯まで 調整のための細かいルールもある。
つい先日だって珍しくあたしが早く帰宅したというのに、既に乱馬だけ夕飯を終えて道場で身体を絞っていたばかりだ。

「今は大会も終わったばっかだし、特に制限はねーんだよ」
「そっか」
「それより 早く店決めねーと閉まっちまうぞ」
「そうね。じゃあ…乱馬はなに食べたい?」
「うーん、そーだなー。なんかガッツリ食いてえ。あかねは?」
「あたし?あたしは…そうねぇ、じゃあガッツリとフレンチ、コースで」
「げっ」
「なによ、その「げっ」って」
「いや、俺、あーゆーの苦手なんだよな…」
「言われなくっても知ってる!さ、じゃあ行こ?」
「え?っておい、ほんとにフレンチ行くのかよ?」
「行くわけないでしょー。焼き鳥よ焼き鳥!あたしだって今日はガッツリ食べたいんだから!」
「お、いいな!」
「でしょ?じゃあどこにしよっか。この近くだとKかTか…それとも電車に乗っちゃって 家の近くのIに行く?」
「取りあえず食って帰ろ―ぜ。腹減った」
「了解」

こんな食の好みが合うとこ、意外と重要。



そのまま、別に手を繋ぐでもなく二人で並んで歩く。
ただそれだけなのに こんなに気持ちが浮き立つのだから あたしもなかなか単純だ。
ふと隣にいる乱馬を見上げる。
相変わらずシャツの袖口はくしゃりと折ってたくし上げているし、スーツ姿の目立つオフィス街ではいたってラフな服装。
けれどあたしの会社の近くで待ち合わせをする時は 決まっていつもより少しだけ小奇麗な恰好をしてきて、それがあたしは密かに嬉しかったりする。

「ふふっ」
「なんだよ」
「別に」
「変なヤツ。あ、変なのは前からか」
「あんたはいつも一言多いのよ」

だけどこんなやりとりも楽しくて。




ゆっくりとした歩調で駅の傍まで来ると、まだ照明が明々と付いている飲食店の中からお目当ての一軒へ足を向ける。
そこはこの前、ぶらっと入って当たりだったあたしと乱馬のお気に入りの焼き鳥屋で。下部分だけ磨りガラスになっている引き戸を開けて暖簾をくぐると、カウンターに並んだ木の椅子を引いて隣同士に腰掛けた。


「乱馬は何飲む?」
「とりあえずビール。あかねは?」
「じゃあ あたしもビールにしようかな」

ちょうどタイミングよく注文を取りに来たお姉さんに生二つを頼むと、じとっとした乱馬の視線とぶつかった。

「…平気かよ」
「なによ その顔は。あたしだって少しくらいは飲めるようになったんだから。それに万が一酔っても 今日は乱馬がいるものね」
「言っとくけど酔っ払いは置いて帰るからな」
「いいわよ。そしたらもっとカッコいい人ナンパして送ってもらうから」
「おいっ!」
「もう。冗談じゃない」
「俺よりカッコいー奴なんているわけねーだろーがっ」
「ってツッコむとこ そこ!?ほんと、あんたって相変わらずね」

こんな幼いところは昔から変わらなくて。

「そんなのお互い様だろー」

あ、でも。
そう言って笑う横顔はいくつになっても好きな顔。



そこへコトンと小鉢に入ったお通しが二品置かれた。
一つはこんにゃくと葉物の白和えで、もう一つはレンコンのきんぴら。
そのレンコンを一口齧ると シャキッとした歯ごたえの中にふわりと優しい甘さが広がる。

「あ、美味しい!」
「ほんとだ、旨い」

そんな二人の声が同時に重なると、カウンターの中の主人が嬉しそうに話し掛けてくる。

「うちは仕上げに蜂蜜を使ってるんですよ」
「へえ、どうりで…」

照りよくゴマと絡んだレンコンの歯ごたえが後を引く。
あたしもこんな風に作れたらな、なんて思いながら「蜂蜜とゴマと…」ブツブツ呟いていると、急に真面目な顔をした乱馬があたしの顔を覗き込んでいるのに気が付いた。

「あのな、あかね。無謀なことは考えんなよ?」
「なによ無謀なことって」
「いや、あかねの手に掛かるレンコンの行く末を案じて――」
「言うと思った!言っとくけど あたしだって随分と上達したんだからね!?」
「とかいってこの前 鍋一個ダメにしたのはどこのどいつだよ」
「あ、あれは…っ!ちょっと火加減を間違っただけで、材料はちゃんと本通りにしたもの!」
「まあなー。ちゃんと分量計って材料を守るだけでも大きな進歩か」

まったく、料理の話になると未だに失礼な言葉を容赦なく浴びせてくるんだから。
けれどその実、この二年くらいはその文句もだいぶ減ってきた。
とはいえ、あたしが料理を作るとなるとどうしても不安は尽きないようで、毎回おっかなびっくりと後ろで覗いているのだから かすみお姉ちゃんへの道のりはまだまだ遠い。
でもね。いつかは乱馬のためにちゃんと健康管理の出来るご飯を作ってあげたいから…だから無謀だと言われても この努力だけは譲れない。

そんなことをぼんやりと考えているうちに、次々と目の前に運ばれてくるのは熱々の焼き鳥やじゃこのサラダ、湯葉豆腐に出汁巻き卵にふわふわの自家製さつま揚げ…。
なんとなくもう一度おしぼりで手を拭いてから サラダと豆腐を乱馬の皿にも取り分ける。


「最近 仕事はどうだ?」
「うーん。まあ ぼちぼちかな。プレゼンには慣れてきたんだけど…」
「けど?」
「なーんか女の世界ってわかんない」

あたしは湯葉豆腐を木のスプーンで掬って口に運ぶ。まろやかな大豆の甘みが疲れた身体に優しかった。

「例えば?」
「え?」
「俺 普通の会社勤めってねーからな。全然想像つかねー」
「あたしも大して変わらないわよ。ただ 高校の時とは違って、単純に仲良くってわけにはいかないんだなーって」

そう。
今のあたしの悩みは仕事内容というよりも その人間関係だったりする。

「やっぱり一般事務から急に広報部移動ってなると風当たりが強いのかしら」
「なんだよそれ。んなの 会社が決めたことじゃねーか」
「そりゃそうなんだけど」
「ま、どこにでも妬(ねた)む奴ってのはいるよな。それは俺の世界もそーだけど」
「むしろ格闘の世界のほうが妬みとか僻みとかすごそうよね」
「まーな。だけどそうやって妬まれるってことはそんだけ自分が恵まれてるってことだから俺は全然気にしねーけど」
「いいわね、単純で」
「あほ。前向きと言え」

二本目の焼き鳥にかぶりつきながら 迷うことなく言い切る乱馬。
こういうはっきりしたところは純粋に羨ましいし 大きな魅力だと思う。
それに加えて目の前に並ぶのはご馳走ばかり。
普段はせいぜい甘いカクテル(乱馬にはジュースってバカにされるけど)をちょびちょびとしか飲まないあたしも 自ずとビールに手が伸びる。


「あかねだって頑張ってんだろ?」
「え?」
「仕事。ちゃんと全力でやってんだろ?」
「そりゃそうよ。みんなの足引っ張るわけにはいかないもの」
「ならいーじゃん」
「え?」
「一般事務からどうとか風当たりがどうとか 気にすんなっつってんの」
「気にすんなって言ったって――」
「ちゃんと見てる奴は見ててくれんだからさ。それでいーんじゃねーの?」
「…」
「ん?」
「…あんたってほんと単純」
「なっ!て、てめー、せっかく人が励ましてやってんのに――」
「でもすごくシンプルでいいと思う」
「へ?」
「そうよね。あたし、頑張ってるもんね?」


…そうよ。あたしだって頑張ってるんだから!
この持ち前の根性と体力だけは他の女の子には負けない自信だってあるもの。
昨年春に広報部への移動が決まった時は そんな希望に満ち溢れていたのに。
いつの間にか その自信に影を差して自分の気持ちが曇っていたのを奮い立たせてくれるのは やっぱり乱馬の何気ない一言なんだ。
思わずじっと隣の乱馬の顔を見つめる。

「な、なんだよ」
「別にぃ。ただ、ここがお店の中じゃなかったらキスしたいなーって思っただけ」
「え…っ!あ、あの、あかね…もしかしてもう酔ってる?」
「酔ってるわけないでしょー。まだジョッキ半分だもん」

ウソ。
もしかしたら本当は少し酔ってるのかもしれない。
だっていつも見てる乱馬が 今日はやけにカッコよく見えちゃうんだから。
…それに。

「大体、なーにがあたしが他の男性社員に色目使ってる、よ!」
「はぁ!?いきなりなんだよ」
「そういうこと言う人がいるの!別に相手は全然そんな気もなくて、ただあたしの経験値がまだ少ないってことで親切にしてくれてるだけなのにね」
「親切って……例えば?」
「例えば、ずっと探してた資料をどこからか見つけて持って来てくれたりとか」
「…ふーん」
「社食が混むからって隣の席を取っといてくれたり」
「…」
「高いところのファイルを取るのに 脚立をしっかり支えてくれてたりとかかな」
「おいっ!」

なによー、乱馬までそんな怖い顔しちゃって。


「なーに?乱馬もあたしが色目使ってるとでも言いたいわけぇ?」
「い、いやそーじゃなくて!そーじゃなくてさ、色々とおかしーだろ!?」
「ふぇ?なにがぁ?」
「だ、だから社食とか脚立とか!大体、脚立押さえるくれーならてめーが上って取ってくれりゃーいーじゃねーか!」
「だってみんなあんたみたいに身軽じゃないもーん」
「あほかっ!脚立くれえ みんな上るだろーが!」
「そっかー。そうかもー」

あー、なんだか美味しいご飯に美味しいお酒。
明日は嬉しい休日で あたしの隣には久し振りに顔を合わせた恋人の姿。
うん、これで気持ちが良くないはずがない。
あたしはふわふわ宙に浮かぶ様な心地よさに顔が綻ぶのを止められない。


「うふふー」
「あー、ダメだ。こいつ完全に酔っぱらいやがった」
「酔ってないもーん」
「酔っ払いに限ってそーゆーことを言うんだよ。ったく」
「あー、乱馬怒ってるー」
「別に怒ってねーよ。呆れてるだけでぃ」
「ほらほら、そんな怒んないのー。笑って笑って~」
「ってこら!人の顔引っ張んじゃねー!」
「あはは、変な顔~」
「そりゃおめーのほうだろーが!」

なによー、そんな怖い顔しちゃって。
あ……でも。
こんな真面目な顔もたまには悪くない、かも。
困ったなー、なんだか無性にキスがしたくなってきちゃう。
思わず形のいい唇を指でなぞるとわかり易いくらいにビクッと反応する、いつまで経っても変わらない少年みたいな反応がなんだかあたしのイタズラ心に余計 火をつける。

「あー、いい気分」
「そりゃよかったな。それよりさっさと食ってもう帰るぞ」
「えー、つまんなぁい」
「あほ。酔っ払いを連れて帰る俺の身にもなってみやがれ」
「あ、わかったぁ」
「なにが」
「早く帰ってイイコトする気だぁ」
「い、いいことって…!」
「なによう。イイコトはイイコト、でしょ?」
「お、おう。い、いいことな、うん、仲イイコト」
「そうよー。明日はお休みだし〜」
「う、うん」
「こうやって会うのもなんだか久し振りだしぃ」
「お、おう、そーだな」
「……ね?」
「…ちょ、ちょっと俺 トイレッ!」

もう。なによぅ。
せっかくこんな近くでじっくりきれいな顔を拝んでたのに。

「やだ。一人でイッちゃやだ」
「イッ…!あ、あほっ!こんな場所で際どいこと言ってんじゃねーよ!」
「なによぅ。行くのはあんた一人でしょー」
「っ!!」


んん〜?
なんだか会話が噛み合わないまま、怒った顔してそのままトイレに行っちゃった。
ふー、それにしてもなんだかほっぺが熱い。
おかしいなぁ、あたしだって結構飲めるようになったと思うんだけどなぁ。
現に今だってこんなに意識はしっかりしてるし。
あ、でもおしぼりの冷たい感触が気持ちいい…。
少しばかりぐるぐる回る視界を落ち着かせるように半分に畳んだおしぼりをぎゅうっと目に押し当てる。じわりじわりと体温でぬるくなってくる薄くて硬い手触りのおしぼり。
そんなサラリーマンのおじさんよろしく白いおしぼりで顔を覆っていると、いつの間にか乱馬が隣に戻って来ていた。

「ほれ、いーからあかねも食え」
「うん」

差し出された焼き鳥の先をぱくりと口先で咥える。
と、

「あ、や、やっぱり危ねーから皿に取ってやるっ!」
「別に平気よー、子供じゃないんだし」
「バカッ!子供じゃねーからタチがわりーんだよっ!」

口では文句を言いながら、せかせかと串からお肉と野菜を外してお皿の上に取り分け始めた。
その上「すんません、ウーロン茶ください!」とか甲斐甲斐しく世話なんかしちゃって。
ふーん。
ふーん。

「ふ…ふふふ」
「な、なんだよ、気味のわりーヤツだな」
「べっつにぃ。ただ、乱馬っていいパパになるなぁと思って」
「へ?」
「きっと子供にもこうやって細々と手を差し伸べるんだろうなーって思ったらおかしくって」
「別に細々となんかしとらんわっ!なんかムカつく、褒められてる気がしねえ」
「なによぅ。じゃあ おじ様みたいに自由奔放なスタイルに憧れるわけ?」
「スタイルって んなカッコいいもんじゃねーだろ。あれは行き当たりばったりっていうんだ」
「ふふっ。確かにそうかも。あ、でも…」
「でも?」
「乱馬がお父さんって…なんかすごい いいかも…」
「っておい!?寝るなよ、こんなとこで?」
「わかってるぅ。寝るわけないでしょー、たったビール一杯で」
「その一杯で酔っぱらってんのがおめーなんだよ。いーからこれ飲め、ウーロン茶」
「はーい」

なによー、せっかく褒めたのに。まったく素直じゃないんだから。
でもね、本当に乱馬がパパって なかなかいいと思う。
強くて優しくてマメでカッコよくて。
うん、かなりいいんじゃないかな。

「ね、ちゃんと乱馬も食べてる?」
「食ってる。っつーか、ほとんど俺が食ってるっつーの」

なるほど。
確かに目の前のお皿の上は次々と空になって 飾り用の紫蘇がへにゃりと貼り付いているだけだ。

「すごーい。あんた お腹空いてたのねぇ」
「まあそれもあるけど。それより早く帰る方が先決でぃ」
「なぁに?今日なんかあったっけ?」
「おいっ!」

もう、なんなのよー。
なんだか今日の乱馬は怒りっぽい。あ、怒りっぽいのは昔っからか。
なのに気付けばもう六年も一緒に居るんだから不思議な縁だ。


「…あのね、乱馬」
「あん?」
「あたし、あんたで良かったなーと思って」
「なにが」
「許嫁」
「あーそーかよ」
「あ、ちょっと真面目に聞いてよー」
「んな酔っ払いの話なんか真面目に聞いてられっか」
「…冷たいね」
「るせえ」

あ、そういう態度なんだ?
せっかく あたしが「乱馬で良かったー」って素直に伝えたのに そんな反応なんだ?
ふーんだ。
あ、そう。
乱馬も「あかねで良かった」とは言ってくれないんだね。
ふーん。
ふーん……。


「…って おいっ!あ、あかね、泣いてんのかよ!?」
「なによぅ、泣くわけないでしょー」
「んじゃ その目から零れてる涙はなんだ!?」
「涙じゃないもん、ビールだもん」
「余計こわいわっ!」
「……だって乱馬が」
「俺が?」
「許嫁、別にあたしじゃなくても良かっただなんてあんたが言うから」
「ベ、別にんなこと、一言も言ってねーだろ!?」
「言ったもん。俺にはもっと他のヤツがいたかもって――」
「だーっ!勝手に話を捏造すんじゃねえ、この酔っ払い!」

だって。
だって。

乱馬はというと 勝手に溢れてくるあたしの涙を慌てておしぼりで乱暴に拭い、「わかった、わかったから」と 何がわかってんだかわからない態度で頭をぽんぽん叩きながら そのままガタンと席を立つ。

「いーからもう出るぞ。ごちそー様でした」
「へ?…ってお会計。お金払わないと食い逃げになっちゃうわよ?」
「もー払った。おめーが酔っぱらっておやじみてーにおしぼりで顔拭いてる間に」
「うそ。あ、ごめん、あたしも払うわよ。いくらだった?」
「いーから。取りあえず行くぞ、ほれ。忘れ物すんなよ?」

忘れ物すんなって…あんたが全部あたしの資料もバッグも肩に担いじゃってるんじゃない。
ってことは残された忘れ物。
忘れちゃいけない忘れ物…。



「はーい」


あたしは一番大切な人の腕に自分の腕を絡ませると ご機嫌に店を後にした。





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comment (12) @ 社会人編 週末の夜は

   
週末の夜は 中編  | 最近の妄想と今後の創作事情 

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2016/10/25 Tue 00:25:14
Re: No title : koh @-
> 2016/10/25 Tue 00:25:14 コメント主様

こんばんは☆
その後、お子様のお加減が少しずつ回復されたみたいで良かったですね(*^^*)。
とはいえ、元気になりたてくらいの子どもが自分の体調を顧みず急に勢いづく時でもあって
何やかんやとお母さん頑張れタイムは続くと思いますので、どうか力を抜きつつ
スマホ片手にたまにはゆっくりゴロゴロしてください♡

ちなみにお子様の名前。すごく可愛いじゃないですか✨。
うちもそうですが、そのイニシャルから始まる名前って小物も多いし、デザイン的にも
音の響き的にも大好きなんです(*‘ω‘ *)。
私も自分の名前は我ながら合っているな、とは思うんですが、やはり欲を言えばその始まりがよかった…。

あとR-18no男性・女性視点。
そうなんです。上手く言えないんですけど、あまり直接的過ぎる表現だったり
まるで女性をイカせたらそれでOKみたいなやり過ぎ感があると私は生理的に読むのも書くのも無理っ!
お子様と言われるかもしれませんが、その根底に恋愛感情がある描写と
ただその行為に没頭することにフォーカスを当てた描写とでは随分違うというか。
どんなにR-18に傾いたとしても、私はあかねちゃんの心情を逸脱した感じにはしたくないな…。
二次創作とはいえ、好きの気持ちの延長先にあるのがR-18作品だと個人的には思っています。
どうでしょう。
次からの展開で果たしてそれがOKの範囲かどうか、こんな偉そうなことを言っておいてちょっとドキドキです…。
(こんな時間に私は一体何を真面目に語っているのでしょう💦)
2016/10/25 Tue 01:29:58 URL
はい‼︎ : みにとど @-
はい‼︎社会人編が大大大好物の1人です。ピンクももちろんどんとこい。この2人の空気感たまらんです。そして朝から居酒屋メニューが食べたくなりました。おっとヨダレが。はしたない中後編を、夜中にアラームかけてお待ちしております‼︎
2016/10/25 Tue 08:29:32 URL
Re: はい‼︎ : koh @-
> みにとどさん

おはようございます。
朝からコメントで笑わすのはやめてください(笑)。
夜中にアラーム~で真面目にコーヒー噴いちゃいました(^▽^;)。
ああ、今の私の机の上の惨状を写真に撮ってお見せしたい…。

社会人編、そんな風に言っていただいて嬉しいです♡
あれだけピンクピンクと騒いでいたのに、昨日書き上げた途端に急にすんごーく
恥ずかしくなってきて、今朝こっそり読み返して
「やばい…投稿宣言しちゃったけど コレどうしよう…」
と心の中でゴロンゴロンしてたところなんです。
といっても所詮は私レベルなんですが(^^;。
取りあえず書きたい願望を吐き出してスッキリします✨。
(スッキリ…だと…?)

女の子に変身しなくなった乱馬は もはやらんま1/1なのですが、
「こんな未来があったらいいな♪」の社会人編、これからも一緒に
お付き合いいただけると嬉しいです♡
2016/10/25 Tue 08:44:07 URL
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2016/10/25 Tue 10:36:24
Re: 朝から‥ : koh @-
> 2016/10/25 Tue 10:36:24 コメント主様

こんにちは(*^^*)。
にやけていただけました?良かったです~✨。
個人的にはこういう何てことない会話のワンシーンとか、ぼんやりとした空気感のお話が好きなんです。
例えば揺れる金魚だとお祭りの提灯灯りのだいだい色、とか、このお話だと雑踏の中の少し煙たい白熱灯の色から……の色への変化とか。
勝手にそのお話ごとに色とか曲を思い浮かべて妄想していくタイプです(´▽`*)☆

少しだけ酔ったせいにしたいあかねちゃんもかわいいし(でも別バージョンで、本当に酔ったあかねちゃんも書きたい💦)、恋人同士で飲んだその後って想像するだけでドキドキしますよね♡
ちょっと大胆にもなれそうだし(/ω\)///。
何かが起こることを…クオリティはあまり期待せず(笑)待っていてください♪

そうそう、各地回る中では「車が一台しか通られへんっ!」って前へ行ったり後ろに下がったり
前へ後ろへ前へ後ろへ…あ……っ…みたいな場所もありました♡
ああー、また息子の受験が終わったら美味しいものを食べにゆっくり遊びに行きたい~✨。
2016/10/25 Tue 16:03:59 URL
管理人のみ閲覧できます : @
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2016/10/25 Tue 17:45:28
Re: こんばんは! : koh @-
> 2016/10/25 Tue 17:45:28 コメント主様

こんばんは☆
パスワードへのご理解いただき、ありがとうございます♡
まずはお試し、ということで。
あ、ちなみに皆様が簡単にパスを突破して万が一にも問題が起きたとしたら、
次は「寿限無」をパスに設定しますね(´▽`*)♪
じゅげむじゅげむ ごこうのすりきれ かいじゃりすいぎょのすいぎょうまつうんらいまつふうらいまつ…

誰 も 読 ん で く れ ん わ っ ! (-ノ"-)ノペイッ☆

それに奥さん。
パスワードを設定しても一度突破すると 他のR-18はいちいちパスワードを入力しなくても
読めちゃうんですよ…。
というわけで。
「パスワードを入力する=R-18を巡る旅決定」の呪いをかけました。
もうこの呪いを解くことは出来ません(笑)。
……私、本当にこんなお調子者でよく生きてこられたなぁ(・´з`・)
2016/10/25 Tue 20:47:41 URL
うふふ : yoko @-
携帯で待ち合わせして、お店の相談して、ビールで乾杯して、食べて酔って語って、社会人カップルの醍醐味ですよねー(#^.^#)
安定感抜群の二人の会話や空気感もいい感じ〜。焼き鳥屋さんの炭火の匂いや情景まで浮かんできました。
甲斐甲斐しい大人な乱馬も良し!酔って絡んじゃう甘えたあかねも良し!
今頃コメントすみません〜&ありがとうございました〜(#^.^#)
続きは明日のお楽しみ…\(//∇//)\
2016/10/31 Mon 21:32:03 URL
Re: うふふ : koh @-
> yokoさん

こんばんは。
そうそう、こういうのってなんか社会人ならではの楽しみというか♡
学生時代のワチャワチャした感じもいいですが、二人でちょっと愚痴をこぼし合いながら
飲みに行くのも楽しいんですよね~✨。
私、全く飲めないクセにこういう時間が大好きで。
ノンアルコールで雰囲気に酔える安上がりな奴です(笑)。
あ、あと続きを読む時は 外で読まないように気を付けてください~(/ω\)(恥)。
2016/10/31 Mon 21:37:30 URL
焼き鳥屋乱あが・・・ : 憂すけ @-
すっげー!いい!!乱馬の翻弄されっぷりが!好きです!酔ったあかねちん可愛いよう!良いなぁ。・・・kohさん、焼き鳥屋さん行こうよー!美味しそうなおつまみにお腹が鳴りっぱなしっす。自分とは違う世界で頑張る許嫁を心配する姿に口許、緩みっ放しです!じゃ、焼き鳥屋で朝まで乱あ話するって事で!先にビール飲みながら待ってるっス!乱あにカンパーイ!🍻(*^^)v
2016/11/03 Thu 16:25:57 URL
Re: 焼き鳥屋乱あが・・・ : koh @-
> 憂すけさん

こんばんは☆
高校生の時は乱馬があかねちゃんを翻弄させる話が多かったので、大人になってからは
逆転していたら面白いなぁと(´艸`*)♪

もうね、あの炭の煙が黙々する中ですすクサくなりながら しっぽり飲みますか!
(※私はノンアルコールですが。←子供かっ!)
あー、そのうち乱馬もあかねちゃんもベロンベロンに酔っぱらう話を書きたい♪
その行きつく先はピンクかトイレでキラキラか、はたまた交番か。
…是非、ピンクで行きましょう☆
2016/11/04 Fri 02:21:29 URL

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