例えばこんな始まりかた(前編) 

2016/11/07


「おめー…………誰だ……?」



意識を取り戻してから初めて発した乱馬の言葉に あたしはただ茫然とするしかなかった。


なんでこんなことになってしまったんだろう。
あたしのことなんか全くわからないといった顔できょとんとした表情の乱馬を前に、混乱した頭であたしはさっきまでのことを思い出す。
そう、ほんの10分程前まで いつもの日常はすぐそこにあったのだ。








「乱馬―。おば様が お風呂空いたから入っちゃいなさいって」
「おう」

道場に呼びに来たあたしの声に、床を蹴り上げた反動のままこちらを向いて少し意外そうな顔をした乱馬が返事する。
その道着の首元には幾筋もの汗が滝の様に流れ、木の床にまで点々と滴り落ちる程だ。
ポタリ。
また一滴、顎の下に溜まった大きな雫が音もなく下に落ちる。
それを目に捉えると、急にこの部屋の湿った熱が上昇した気がした。
思えば夕飯後からかれこれ二時間以上、乱馬はこの道場に一人籠っていたことになる。

「それにしてもあんた、食後によくそんな動けるわね」
「まーな。ちょっと軽く慣らすつもりが なんかつい力が入っちまって」

そう言いながら「あともうちっとなんだよなー」とかなんとかブツブツと呟いている。
おそらく 新しく思いついた技をあれこれ試しているうちに いつの間にか時間が経つのも忘れてしまったに違いない。
それはそれで構わないんだけど、流石にそろそろお風呂に入って明日の学校の用意もしないとマズいだろう。まあ、学校の用意と言ってもそこは完全に他力本願の乱馬のこと、どうせ今日もあたしの宿題を当てにしているのだろうけど。
そろそろ切り上げると言いつつ まだ無意識のように体を動かしている乱馬。その足を宙に蹴り上げる度、白い道着の隙間から汗が散って また床に跡を残す。
合わせた道着の隙間から覗く腹筋の筋には玉のような汗が浮かび、その汗が隣同士のものとくっつけばまた一筋の川のように身体の凹凸の間を流れ落ちていく。
どうあがいても女のあたしとは違う筋肉。
率直に綺麗だ、と思った。
そんなあたしの視線に気が付いたのか、急に動きを止めた乱馬が肌蹴た道着の前を合わせると帯を締め直す。

「なに見てんだよ、スケベ」
「ス、スケベってなによ!」
「だって今、おれの裸じっと見てただろー」

そう言ってわざとらしく「もう嫁に行けない」なんてシナを作るものだから、あたしもつい「それを言うなら婿でしょっ!あんた いつから心まで女になったのよっ!」と最高にどうでもいいツッコミを入れてしまう。
まったくもう、乱馬といると一事が万事 こんな感じ。
お父さん達が期待する様な甘い空気になんて なりようもない。

……せっかく様子を見に来たのにバカらしい。
あたしこそ さっさとお風呂に入ってもう寝ちゃおう。
そう思ってくるりと乱馬に背を向けた時だった。



「……今日、なんて答えたんだよ」


ぼそりと。
急にいつもより少し低い乱馬の声が道場に響いた。
それが何を指しているのかはすぐにピンと来たけれど、あたしは気付かないフリして適当に誤魔化してみる。


「なんてって何が?」
「誤魔化してんじゃねーよ」
「だから何よ。いきなりそんなこと言われてもわかんないんですけど?」

そうよ。
そんなこと言ったら あたしだって乱馬に聞きたいことは沢山ある。
今日もまた あの三人娘に追いかけられてたでしょ。
帰宅は遅いし、夕飯もあまり食べないしで、どうせまた右京のところでお好み焼きでもご馳走になってきたんだわ。あ、それともシャンプーのいる猫飯店?まあ どっちでもいいけれど、なんにせよ正直おもしろくはない。
おもしろくはないけど、それで「どこに行ってたの?」なんて聞いたら途端に「なんだ、またヤキモチか?」なんて言われることは目に見えているからそれも憚られて。
だけど今日一日そんなモヤモヤとした気持ちで過ごすのも嫌で、こうやってわざわざ道場までやって来たのだ。
お風呂なんてあくまで口実。大体、あたしだってまだお風呂に入っていないのにおかしな話を切り出しちゃったかなとも思ったが、どうやら乱馬はその矛盾点には気付いていないらしい。
もう一度乱馬が、今度はあたしの顔を見てはっきりと聞いてくる。

「今日さ、おめー放課後に呼び出しされてただろ」
「呼び出しって……ああ」

確かに放課後、学年が一つ上の野球部の先輩に体育館裏へと呼び出され告白された。けれどいつも通り丁重にお断りしたし、わざわざ乱馬に報告するようなことなんて何もない。
なぜそのことを乱馬が知っているのかは疑問だったが、おおかた人の下駄箱を勝手に覗いたか 風の噂で聞いたのだろう。
けど…

「な、なんて答えたんだよ」

……どうやら少しはあたしのことが気になるらしい。
再びあたしに背を向けて足の筋を伸ばすように腰を曲げながら、尚もしつこく聞いてくる。
ふーん、なんだか珍しい。
いつもだったら適当に誤魔化すと 決してそれ以上は詮索してこないのに。
ふーん。
ふーん。

……。



(……ちょっとからかってやろうかしら)



「別にぃ。乱馬には関係ないでしょ」
「かっ、関係ねえっておめー…!」
「だってそうでしょ?あたし達って親が決めただけの許嫁以外に 何か関係あったっけ?」
「っ!」

途端にぐっと押し黙る。
ふふん。いつもあたしばっかり三人娘にヤキモキさせられてる罰。いい気味だわ。
その様子が妙におかしくて。
口だけパクパクさせて何も言わない乱馬の前に回り、形勢逆転といわんばかりに今度は乱馬の顔を覗き込んでもう一度聞いてみる。

「それとも もしかして少しは気になる?」
「べ、別におれはそういう意味で聞いたわけじゃ……!」

往生際悪く顔を赤くしてワタワタと取り乱しながらも相変わらず素直じゃない。
そんなつもりじゃないんなら どういうつもりだっていうのよ。
なによ。
そっちがその気なら……


「まぁ そうよね。じゃあ あたしも乱馬に報告する義務なんてないからどうでもいいじゃない」
「あ、あかね……?」
「だって あたしのことなんて別に気にならないんでしょ?」
「っ!そ、それは…っ」
「じゃあなに?やっぱりあたしのこと、気になるわけ?」
「んっ、んなわけ――っ!」
「なーんてね。乱馬もシャンプーや右京達と楽しそうにしてるし、そんなわけないわよねぇ」

どう?ちょっとは嫌味が通じたかしら。
あたしは少しだけ溜飲を下げると、ここぞとばかりに更に畳み掛ける。


「思えばあたし達、親が勝手に許嫁って決めてからもう一年以上も経つけど…」
「…」
「でも特に二人の間には何もないじゃない?」
「…っ」
「毎日他の女の子達に追いかけられて優柔不断な許嫁だなんてあたしも嫌だし」
「ゆ、優柔不断って…!」
「なによ、優柔不断は優柔不断でしょうが」

いい加減、はっきりしてよね。
心の中でそう呟くと、トドメとばかりに少しキツイ言葉を吐き捨てる。



「あーあ。折角だからあたしも誰かとお付き合いくらいしてみようかな」


さてと。
今度こそお風呂に入っちゃおう。

そう思って道場の扉にほうに踵を返した時だった。
突然、ものすごい力で腕を引っ張られると同時に視界がぐるりと反転する。
一瞬、自分の身に何が起きたのかがわからなかった。


え?

え?



今、あたしの目に映るものは木造作りの道場の天井と、それから照明を背に、暗く逆光の中に浮かんだ乱馬のシルエット。
眩しい光をまともに見てしまったため 視界がチカチカと霞んでその表情がはっきりと読み取れないけれど、その肩から、腕から、何か怒りのようなものが殺気立っているように思えてならない。
急に腕を引っ張られてバランスを崩したあたしの背中を支えつつ、吐き出された乱馬の声はゾッとするほど冷たかった。


「誰かって誰だよ」
「…え?」
「とぼけんなよ。今おめーが言ったんじゃねーか、誰かと付き合うって」
「あ…そ、それは……っ」

ちょっとした悪戯心で、なんて。
いつもだったら舌を出してふざけられるのに、目の前の乱馬からそんなおちゃらけられるような空気は一切感じられない。
ううん。寧ろ ここで「なんてね、冗談よ」と笑い飛ばす方がよっぽど勇気がいるような気がした。
まるで社交ダンスのポーズのように腰から仰け反った姿勢を真っ直ぐに立て直した後も、掴まれた左手首の拘束は解かれることはない。
それどころが、ギリ…と更に力を込められたその手の先はうっすらと白く色が変わり、細い血管が紫色に浮かび上がってしまっている。


「…おい」
「……っ」
「何とか言えよ」

な、何とかって…。


「べっ…、別にいいでしょっ!?」
「何がだよ!?」

ああ、もうっ!
勢いだけで何とかこの場を乗り切ろうとぶんぶん腕を振ってみるけれど、がっちりと掴まれたそこは悔しいくらいにビクともしない。
いつもだったらとっくに「おめーと本気で付き合える物好きがいるなら勝手にしろよ」なんて憎たらしい顔をして笑う乱馬はどこにもいなくて、金縛りにあったように。もっと言えば蛇に睨まれた蛙のように、あたしはみるみる縮こまるしかないんだ。


「だ、だから、別に今すぐ誰かとどうっていうわけじゃなくて…っ」
「…」
「高校生っぽく、あ、甘えて……付き合ってみるのも憧れるっていうか…」
「…」
「ちょ、ちょっとそう思って言ってみただけ!もういいでしょっ!?」

自分の顔があり得ないくらい赤くなっているのを感じる。
耳の先までジンジン痺れるくらいの熱を自覚すれば、なんであんなことを言っちゃったんだろうという後悔しかなくて。
それをこんなにも厳しく追及されるとは思ってもみなかったから決まりが悪いったらありゃしない。

大体、なによ。
よく考えてみたら 何もそんなに乱馬が怒る権利は無いんだわ。
自分だって散々あたしのことを「色気がねー」だの「凶暴」だの、「こんなかわいくねー女と付き合う奴がいたら顔が見てみて―ぜ」なんて最高に失礼な暴言を吐いている張本人のくせに。
……考えてたら だんだん腹が立ってきた。


「あのねー、言っとくけどあたしが誰と付き合おうが乱馬には関係ないんだからね!」
「か、関係ないってどういうことだよっ!」
「あんただって毎日他の女の子とイチャイチャしてるじゃない!なんであたしだけこんな責められなきゃなんないのよ!」
「別に責めてるわけじゃあ…っ!」
「じゃあもういいでしょ!あたし お風呂に入るんだから手を離してよっ!」

そうよっ、あたしがどこの誰と付き合おうが関係ないでしょ!
完全に意固地になったあたしは我ながらかわいげのない態度で掴まれている腕を再び振ると、まだ何か言いたそうな乱馬の声など聞きたくないと全身で意思表示してツンと顔を逸らす。
なによ、乱馬のバカバカバカ。
今更謝ったって絶対に許してあげないんだから!
そう思ってちらりとその表情を伺った時だった。







「…………ま、言われてみりゃそーだよな」




それは"謝る"どころか、いつものように意地悪い顔で半笑いしながらあたしを見下す乱馬の姿。




「おめーが誰と付き合おうが 確かにおれには関係ねーよな」
「っ!」
「あかねの言う通り、おれ達って親が決めただけの許嫁でこの一年間 特に何もねーし?」
「…そうね」
「おれなんか顔を合わせりゃ殴られたり蹴られたり散々だもんなぁ」
「そ、それはあんたが怒らせるようなことばっかりするからでしょうがっ!」

明らかに挑発している、ジトっと人を馬鹿にするようなその目つき。
それが本心かどうかはわからないけど、自分の非なんて全く認めようとしないその態度にあたしの胸の奥がズキリと痛んだ気がした。


「にしても おめーもいい加減な女だよな」
「な…っ」

何言ってんのよ!
あたしがいい加減なら あんたなんて超いい加減じゃない!
そう言い返してやりたいのに、あまりの驚きにあたしの口はただパクパクと空気を吐くだけだ。
尚も乱馬が好き勝手に続ける。

「だってそーだろ?好きな奴がいるわけでもねーのにちょっと付き合ってみるとか言っちゃって」
「それは…っ」
「そんなんで付き合わせられる男の方が可哀想だぜ」
「な、なんで乱馬にそこまで言われなきゃなんないのよっ!」
「だっておめーもシャンプーやウっちゃんのこと おれに言うじゃん。おあいこだろ?」

そんなの。
そんなの、全然おあいこじゃない。
乱馬は実際にベタベタされてもはっきり拒絶をしなくって。
あたしはちょっと高校生の女の子らしい極々普通の憧れを口にしてみただけなのに、それのどこが一体おあいこだと言うのだろう。
大体…。
自分のことも棚に上げて、あたしが"付き合おうかな"と言った言葉をそんな軽くバカにされてしまうのが悲しかった。
さっきまではあたし自身、あんなに冗談にしてしまおうと思っていたのに、だけど いざ乱馬の口からそう言われると乙女心は複雑で。
何より、本当はあたしが誰に想いを寄せているのかなんて まるで無視したような言い草が酷く悲しかった。


「…なによ」
「あん?」
「なによ、なによ!乱馬にだけは言われたくないわよ!」
「はあ?おれだっておめーになんか――」
「あたしは他の男の子とベタベタなんかしてないもん!なのにおあいこだなんて、一緒にしないで!」
「お、おれだってベタベタなんかしてねーよ!あれはあっちが勝手に…っ!」
「それは乱馬がはっきりしないからでしょ!この優柔不断男!」
「ゆ…っ!さ、さっきから聞いてりゃおめーなぁ、あかねこそおれが必死であいつらを拒否してんのを認めようとしねーじゃねーか!」
「あーら、あれが拒否なわけ!?追いかけてくる相手に平気な顔でご飯をご馳走になるあの態度が?」
「そ、それは……っ」
「ほらね、全然おあいこなんかじゃないじゃない」
「あ、あかねだってしょっちゅう他の男に抱きつかれてんじゃねーかっ!」
「あれこそ交通事故みたいなもんでしょうが」
「それに良牙の野郎だってブ…っ」
「良牙君?良牙君がどうかしたわけ?」
「え…っ!あ…と、ともかくだなぁ、あかねはいつも隙があり過ぎんだっつーの!」

はあっ!?
全く意味が分らない。
大体、なんでここに突然 良牙君まで出てくるのよ。
関係ない良牙君の名前まで勝手に持ち出して、何が何でも話をイーブンにしようとするその無神経さが益々許せなかった。



「あのね、そもそも 誰が好きな人はいないなんて言ったのよ」
「えっ!?っておめー…そそそそそれって…!」
「なあに?別に17歳にもなって好きな人がいたって何も不思議じゃないでしょ」
「そ、それはそーかもしんねーけど…っ」
「あたしだって…その人と付き合ってみたいなって想像することくらいあるわよ」
「っ!」
「だから不特定多数の女の子とベタベタしてる乱馬となんか一緒にしないで!」

ああ、もう恥ずかしい。
これってまるで半分告白したも同然じゃないと思いつつ、"ううん、これはあくまで女心の一般論よ"と自分で自分に言い聞かせる。
それに……少しはあたしの想いにも気付いてよね。
そう思って今度こそ道場を後にしようとした時だった。

「だ、誰なんだよ、その、あかねの好きなヤツってのは?」
「はあ?乱馬には関係ないじゃない」
「か、関係ねーのかもしんねーけど関係あんだろ!」
「何よそれ。言ってることが思い切り矛盾してるんですけど」
「るせえ!」

笑っちゃうくらいにどもりながら、それでも妙にムキになった乱馬がしつこく聞いてくる。

「あ、あ、あかねがすすすす好きだっつー奴は、あかねの気持ち知ってんのかよ?」
「…さあ?」
「さあって……」
「あいにくあたしの好きな人って鈍感みたいで。でもいいの、どっちにしろ乱馬には関係ないでしょ」

本当はここで「どうかな?どう思う?」とかわいく聞いてみれば何かが変わるのかもしれない。
けれどあたしにそんな器用さがあるはずもなく。
何より、この流れであたしだけが素直でかわいげのある態度なんて取れるわけがなかった。

「かわいくねー女」

あたしの言葉にお決まりの文句を返してくる乱馬。

「ええ、どうせかわいくない女ですよ」
「ずん胴」
「…」
「凶暴女」
「…ちょっと」

あんたはそんな小学生みたいなことしか言えないわけ!?
キッと睨み付けると、「お、なんだ。やるのかよ?」と挑発しながら あたしの手首を掴んだ反対側の手で手拳を作る。

はあ……。


「安心して。そんなかわいくない女があんたに関係することなんて絶対ないから」
「絶対って……あー、そうかよっ!それならこっちも助かるぜ!」
「じゃあ あれこれ人のこと詮索しないでよね!」
「あかねこそ、後で謝ってきても もう遅せーからな!」
「だーれが謝るもんですか!」

ギリギリと睨み合い。
普通だったらそのままキスの一つにでも発展するんじゃないだろうかという所まで互いに顔を近付け文句を言い合うと、急に力が抜けたように乱馬が「はあ……」と溜め息をついてあたしに背を向けた。
ようやく解放された手の平に、熱いお湯に触れた時みたいにジンジン血が巡っていくのを感じる。
その痺れるような手首をさするあたしの様子に少し気まずくなったのか、不貞腐れたように乱馬が口を尖らせた。


「…やめたやめた。バカらしー」
「バカらしいって…っ」
「だっておれには関係ねーんだろ?その…あかねの、す、す、好きな人ってヤツ」
「っ!そ、そうよ!」
「大体よー、みんなおめーのどこがいいんだろうな。凶暴、ずん胴、料理は出来ねえ、そのくせすぐに手が出る馬鹿力――」
「馬鹿力ってこれのことっ!?」

言われたそばから咄嗟に繰り出されるあたしの鉄拳。
それがキレイに入った音がした。






いつもだったらちゃんと受け身を取るくせに。
大袈裟に痛がる振りしてちゃっかり痛みを逃がしているくせに。


バキッと派手な音を立ててそのまま壁まで吹き飛ばされると、そのままずるずると座り込んで目を開けようとしない。



なによ、そんな大袈裟に。
さっさと起きなさいよ。それとも それも嫌味の一つなわけ?
そう思いつつも、少しばかりやり過ぎたかなという思いもあって念のため乱馬が目を開けるのを待つ。
が、やはりぐったりとしてそのまま目を開ける気配はない。





「……ねえ」

乱馬からの応答はない。





「ねえってば」

……。





「ね、ねえ、ふざけてるんでしょ?ね、乱馬…?」



こんな時に揺すっちゃダメなんてことは百も承知している。
それでも流石に不安になってあたしも乱馬の真ん前でしゃがみ込むと、おそらく一番強く打ち付けたと思われる頭の後ろにそっと触れてそのこぶを確かめる。


「ねえ、乱馬?ねえ、起きて!乱馬…!」

もう一度声を掛けても やはり何の応答も返ってこない。
急に足元からガクガクと震えが駆け上がってくるような言いようのない不安が襲ってくる。

どうしよう。
どうしよう。

「ね、ねえ、大丈夫!?乱馬…?乱馬っ!?」

思わず声のトーンも考えずに大きな声を出した時だった。
不意に目の前の乱馬が「う…」と小さな呻き声を上げながら、その瞼を僅かに動かす。


「ら、乱馬っ!?」
「………………あ……」

まだぼんやりとした様な揺れる瞳で あたしの顔を優に10秒以上見つめた後。






「おめー…………誰だ……?」





そこで呟かれた台詞に、あたしは絶句するしかなかった。





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comment (2) @ 高校生編 短編(日常)

   
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2016/11/07 Mon 06:45:10
Re: No title : koh @-
> 2016/11/07 Mon 06:45:10 コメント主様

おはようございます。
記憶喪失系…切ない、切ないです。
でもこのお話に関しては…ふふふです(笑)。
なんだか久し振りの高校生乱あ、書いていてとても楽しかったです。
そして とっても面倒くさかった(笑)。
長い、長いよ あんたたち。
もういっそ、「嫌い、でも好き、チュっ!」と三段階で一気に行って欲しいものです。
(ぜ、全然萌えない…orz)

例の件に関しては おかげさまで沢山の温かいコメントをいただいたのですが、
その殆どが非表示の為 なかなかズバーンとお返事しづらい部分もあり、今回あのような形で追記させていただきました。
文章にしてみるとやけに深刻な感じなのですが、実際の私は全くそうではなく(^▽^;)。
ただ、心配してくださっている方に 今後の自分の対応(と、その理由)だけはお伝えしておこうと思った次第です。
普段は彼女のことを考える余裕なんて全然ないですし、そもそも考えてもいないので元気ですよ~♡
誰かがこうして形に残すことで 同じような出来事が繰り返されなけらばいいな。
なんだか偉そうですが💦、そんな風に思っています(*‘ω‘ *)。
2016/11/07 Mon 07:17:53 URL

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