7. タイムリミット
2017/01/21
やっと触れられる ―。
そんな軽い眩暈すらするほどにのぼせた空気を邪魔したのは、薬缶の沸騰した音だった。
ピ――ッ
シュンシュンと勢いよく湯気を吐き出し、クレッシェンドのように熱された中身が唐突に高音を響かせながら、狭い台所でこれでもかと主張する。
それを止めたのはおれじゃなくてあかねの方だった。
腕の中からするりと抜け出し、
「近所迷惑…!」
と慌ててガスのスイッチを切る。
ピウ…と情けないような小さな音を最後に、途端に静かになる薬缶。
「あ、あの、あかね…」
「…邪魔されちゃったわね」
ぺろりと舌を出して笑って見せるが、おれの落胆はそんなかわいいもんじゃねえ。
過去に散々お世話になった薬缶ながら、今はただただ恨めしい。
(くそ…っ、こんなことなら電気ケトルにしとけばよかったぜ)
恥ずかしさはもちろんのこと、なんとなく気まずくなってあかねとも目を合わさずにゆらりと漂う白い湯気を見つめる。これで少しでもガタがきてみろ。お前なんて直ぐさま廃棄処分だからな!と不穏なことまで頭を過る始末。
流しの上の細い蛍光管だけが青白く光る台所で、おれの顔が影になっていることがまだ救いだった。
思わず口から溜め息が出そうになり慌てて堪えたけれど、結局は鼻から深い息が漏れて、あかねが少し困ったような表情を見せる。
「ちょっと…そんな顔しないでよ」
「うるせー」
「嘘つきのくせに」
「そりゃおめーもだろうが」
ほんと、人間って欲深い。
ついさっきまであかねが笑ってくれればそれでいいなんて純情清らかなことを考えてたのに、今は目の前でお預けを食らった犬みてーな気分だ。
「いいからほら。紅茶淹れたら持って行ってあげるから炬燵で待ってて」
…ていうか。
ほんとはせめてもう一回抱き締めたかったんだけど、薬缶を持ったあかねに後ろから抱きつこうもんなら熱湯をかぶるのは目に見えている。
「…あー、さみい!」
寒いからな。
仕方なくだからな!
さり気なくそう主張するようにスウェットのポケットに手を突っ込みながら、いたたまれなくなったおれは隣の部屋へ、すごすごと背中を丸めて戻った。
*
「はい、お待たせ」
「おう」
さっきとは逆にあかねがおれの前にゴトリとカップを置く。
触れられそうで触れなかったことへの未練はまだ引き摺っているが、それでもあかねのほうからこうして紅茶と、何より欲しかった二人の時間を与えられてやっぱりおれは嬉しかった。
もしかしたらそれが表情にも出てるのかもしれない。
おれの顔を見たあかねがふっと笑うと、「あー、やっぱり炬燵ってあったかい」と掛け布団を胸まで上げて頬を付けた。
外では雪が降っている。
それを知っているのに、窓の外の景色を見ようとしないおれとあかね。
昔だったら積雪の予報を聞いただけで何度も窓に張り付いて外の様子を伺っていたのに、それをしようとしないのはおれ達が少しは成長したのか、それとももっと別の理由があるからなのか。
どのみち、あと数十分後には嫌でも外に出なきゃなんねーんだ。
だから今は余計なことを考えないようにしようと、おれはあかねの顔をじっと見る。
何ていうか、さっきまでは見ているようで見ていないというか、ちらちらと小刻みに盗み見した表情はどれも緊張感みてーなもんに包まれてて、だからこそいい具合に力の抜けたようなあかねから目が離せなかった。
「なに?」
「い、いや…」
なんでこいつはこんな落ち着いてるんだよ。
おれ一人でドキドキしてバカみてーじゃねえか。
まるで中学生の初恋のように高鳴る鼓動を誤魔化すよう、おれも掛け布団を胸の上まで引っ張ると
「ねえ、そういえばなんで乱馬はこっち側に座ってるの?」
ととぼけたことを聞いてくる。
先程までは向かい合って座っていた二人。だが、少しでもあかねの傍にいたいおれは台所に背を向けるように、ベッドにもたれ掛かれるあかねのすぐ斜め左に腰を下ろしていた。
だけどそんな理由は流石に恥ずかしく言えなくて。
「別にいーだろ」と素っ気なく答えたら、「…あ、わかった!」と一回手を叩き、閃いたとでも言いたげな声を上げる。
「乱馬、テレビ観たいんでしょ?」
「へ?」
「あんた、家にいた時からテレビっ子だったものね」
って待て待て。
ここで悠長にテレビなんか観てる場合なのか?
確かに先程までの深刻な空気ではなくなったとはいえ、おれにはまだ聞きたいことは山程あるし、なんだったら伝えなきゃなんねえ言葉だってある。
いくら適度なリラックスが好ましいとはいえ、まさかテレビを観ながらそれを言う気にはなれなかった。
「別にテレビなんて観たくねーよ」
「あらそう?めずらしい」
「あかね」
まだリモコンを手に持っているあかねに目だけで訴えかけると、
「…わかったわよ、もう」
急に声が小さくなったあかねも、どうやら実は緊張していただけらしい。
シン…と一瞬静まり返る部屋の空気を変えるように、あかねが紅茶を一口飲んで息を吐いた。
「なにから話そっか」
「…」
「なんか…急にあらたまるとちょっと緊張しちゃうわね」
だけどその顔は先程とは違うふわりと優しい笑みを浮かべてて。
今すぐ抱き締めてえな。なんだったらもう一度キスをやり直したい。
ついつい頭の中を過ぎる大学生にしてはかわいい願望を悟られないようにしながら、おれは聞きたいことの優先順位を決めようとした。
こんなに遅くなって怒られないか?
今日、おじさんやおふくろ達には何て言って来たんだ?
さっきのくだらねえ噂話はもう真に受けてないんだよな?
それから、えっと、文化祭で見たあの男とは一体どういう関係なんだ?
あかねが髪の毛を伸ばしてる理由も、もしかしたら他の男に関係するのか?
…おれ達、まだ許嫁同士でいられるんだよな?
おれはあかねが好きで…あかねはおれのことが好きってことでいいんだよな?
聞きたいことが山の様にある。
だけどそのどれもが「はい、いいえ」で端的に答えられるものとは限らない。
ちらりと時計に目をやると、その針は9時14分を指していた。
大体9時過ぎくらいだろうと予想していた自分の感覚に感心しながら、一方で もうそんな時間なのかと落胆し、本当は一番に聞いてやらなきゃいけないことがなかなか口をついて出てこない。
― 何時にここを出れば帰りの電車に間に合うんだ?
ああ見えて天道のおじさんは心配性で、かわいい娘に突然許嫁なんて押し付ける暴挙に出ながらも、末っ子のあかねのことをそれはそれは大切にしている。
やはり、早くに奥さんを亡くしているせいだろうか。
時には父親らしく、時には母親のようにあかねを見守り、おれとどうこうなるという恋愛的な部分には妙に寛大なくせに、そのくせちょっと夜が遅くなるだけで「乱馬くん、あかねを見に行ってやってくれ」と頼んでくるほどだった。
だから本当は真っ先にこれを聞いてやんなきゃなんねーのに。
あと5分、
やっぱりあと5分だけ…、
ここまできてまだおれは未練がましく、この二人の時間が続くようにとあがいていた。
不思議だな。
さっきまでは会話をすることが息苦しくて、でも話してないとすぐにでもあかねが帰ってしまうような気がして必死で語り掛けていた。
でも今は違う。
こんなにも聞きたいことは沢山あんのに、あかねがいるだけで。
ただ、あかねがここにいるだけで忘れかけてた自信とか安心感みてーなもんが胸に広がって、例え沈黙を避けるように無理に話さなくても、充分通じ合える気がした。
「……髪」
「え?」
「あかね、髪伸びたな」
「うん。さっきも言ってたわね、それ」
「そうだっけ?」
なんで急に髪なんて伸ばし始めたんだ?
ただの心情の変化か?それともやっぱり、一時的だとしても他の野郎のためなのか。
あかねが簡単に他の男になびくそんなふわふわとした女じゃないってわかっているのに、離れていた分だけまた余計な嫉妬心がちらつく。
あー、なんかこういうのを恋愛感情って言うんだろうか。
ただ「好き」、ただ「かわいい」だけじゃなくって、自分の知らない相手の一つ一つのことがいちいち気になってはちょっと面白くないこの感じ。
こんなの、マジでらしくねえと自分に舌打ちしたくなるくらいの独占欲で、あかねを前にするとおれは急に弱くなったような気分になる。
もしも今、あかねに「長い髪と短い髪とどっちがいいと思う?」なんて聞かれても、もしかしたら「短いほう」と即答してしまうかもしれねえ。
先程までとうって変わって黙りがちになるおれに、今度は積極的にあかねが声を掛けてくる。
「相変わらず乱馬の部屋って物が少ないのね」
「ああ、まーな。部屋の中でトレーニングすんのにごちゃごちゃしてると邪魔だし」
「でも炬燵があると冬は場所取らない?」
「ばーか。その気になれば畳一畳分のスペースだって充分鍛えられるんだぜ」
「ちょっとやって見せてよ」とせっつくあかねに「今度な」と短く返事する。
今度。
また今度こうしてあかねが部屋に来てくれれば、筋トレだってなんだって喜んで見せてやるけど、「じゃあ約束したから絶対来いよ」とノリに任せて誘うことはしなかった。
いや、正確にはしなかったんじゃなくて出来なかった。
意識すればするほど、どうしても過剰に期待した後の反動のつらさに臆病になっている自分がいる。
「ねえ、普段の暖房は炬燵だけで過ごしてるの?」
「え?」
「だっていくら温かいとはいえ、炬燵だけだと台所とか夜寝る時とか寒いじゃない」
「確かになぁ。だけどおれ、いまいちエアコンの乾いた空気が苦手なんだよな」
そこまで言ってハッとする。
「あ、もしかしてあかね、炬燵だけだと寒かったか?」
そういえば女は男に比べて寒がりな奴が多いって聞いたことがあるな。
おれが女に変身していた頃はどうだったか忘れちまったけど、普段暖房の効いた部屋で過ごしているあかねにとっては、この部屋は想像以上に寒く感じるのかもしれない。
今更ながら慌ててエアコンをつけようとすると、「そう言う意味で言ったんじゃないから大丈夫」と止められた。
聞きたいことがあるのに聞けなくて。
話したいことがあるのになかなか本題に入れなくて。
きっとあかねだってタイムリミットが迫っていることに気付いていながら、お互い手の内を探るようにどうでもいい話題を飛び飛びに口にする。
もしもこれが実家にいた頃なら普通のことなんだろう。
だけど今は二人きりだから。
せっかく、誰の邪魔もなく数年振りにまともに話をするチャンスなのに、周りに茶化す奴がいないからか余計に回り道をしている気がする。
テレビを点けていないこの部屋は余りにも静かで。
耳を澄ませば本気で雪の降る音まで聞こえるんじゃないかと思うくらい、冷たい空気が剥き出しの畳の上を這っていた。
「…あかね」
「なに?」
「あ…、」
「なあに?」
「…」
「なによ、気になる」
「い、いや、その…」
「いいから言って。言ってくれなくちゃ気持ち悪いじゃない」
「……」
おれはずっと違和感があった。
だけどそれに気付かないように。
これ以上、欲を出さないようにと、そのことに気付かない振りをしていた。
だけどそれは余りにも不自然で。
もしもあかねがたった一言、「今何時?」と確認すれば、おれだってすっぱり諦めがついて駅まで…なんだったら実家までだって送ってやれるのに。
けれどあかねが時間の話題に触れない以上、わざわざおれから言い出さない方がいいんじゃねえかなんて自分に都合よくも解釈したりして、結局聞かなきゃいけない言葉が喉の奥で飲み込まれてしまう。
だけどもう、本当に……。
……。
「あの、さ…」
「…」
「帰りの電車の時間。そろそろなんじゃねーか?」
「…」
本当は一瞬期待もしたけど。
だけどもしもあかねの立場になってみたら、浮かれたおれを前に「そろそろ電車の時間だから」なんて無情に告げにくいだけなのかもしれない。こいつ、意外にそうやって気を遣うところがあるからな。
だとしたら今の今までこちらから声を掛けてやらなかった自分を恥じ、続きは次回に持ち越しだと己に言い聞かせる。
何もこれで終わりなわけじゃない。
寧ろ夕方まで僅かな望みに賭けて一人で部屋にいたおれが、こうしてあかねと一緒の空間にいること自体、一歩も二歩も前進じゃねえか。
無理矢理にでも自身を鼓舞して笑顔を作ると、
「わりい、すっかり遅くなっちまって。もうこんな時間なんだな」
まるで今時計の針に気付いたように振る舞った。
これでいい。
今日はここまで。
あとはまた日を改めてあかねと向き合おう。
そう言い聞かせて炬燵から出ると、先程のコートを手に取る。
まだ全体的にしっとりと湿ってはいるが、びしょ濡れという感じではなかった。
「ほらあかね、おめーも早く帰る支度しろよ」
なんていうか、おれってすげー常識人みたいだよな。
ほんとは頭で考えてることは全然別のことなのに。
こういうのを紳士的って言うんだろうか?それともただの意気地なし?
まるで立ち上がろうとしないあかねに“期待させんな“と半ば苛々しながら、コートを羽織ったおれは今度は炬燵に足を突っ込まず、その場で屈み込むようにしてあかねの隣に座る。
「あかね」
「…」
「おーい、あかね。あかねちゃん」
「…」
「あ、もしかして足が痺れてんのか?」
「…」
おれの問い掛けにぶんぶんと無言で首を横に降る。
じゃあなんだよ。
まさか、炬燵で温まってるうちに眠たくなったとでも言う気じゃねえだろうな。
確かどんなに急いでも、この部屋から実家までは2時間以上は掛かったはずだ。ということは、いよいよ家を出ないと本当に最終電車を逃しちまう。
しかもそれだって雪の降っていない平日の話だ。
今日は土曜日で、ましてや今も雪が降ってるとしたら電車のダイヤは大きく乱れ、本数自体も減っているだろう。
「あかね」
「…」
何も話そうとしないあかねに痺れを切らし、おれはアプローチを変える。
「やっぱ電車遅れてんのかな。でも自然現象で遅延した場合は確か振り替えも出たりしたよな」
「…」
「ちょっとテレビで遅延状況確認してから家出るか」
そうだ。
ニュースの映像で降り積もった雪を見たら、流石にこんなとこでグダグダしてる場合じゃないとあかねだって思うだろう。
さっきまであんなに外の様子を知らせたくなかったおれがこんな躍起になっているのもおかしな話だが、まずはあかねを無事家に帰すことが先決だ。
キョロキョロと辺りを見回し、いつもの場所にテレビのリモコンがないことに気が付く。
「あれ?さっきまでここに置いてあったはずなんだけど」
「…」
「あかね。テレビのリモコン知んねえ?」
「…知らない」
「あれー、…っかしいな」
もしかして炬燵布団の中に落ちて紛れ込んでるとか?
それも充分に考えられた。けど、スカート姿のあかねが炬燵に入っている中で「ちょっと確認するぞ」と掛け布団をめくるのも躊躇われる。
ついさっきまでそこにあった携帯よりも大きなリモコンがそんな簡単に行方不明になるはずはないんだけどな。
あるわけないと思いつつ、念のため雑誌の横やベッドの上を確認してみてもやはり見当たらない。
どうしたものかと逡巡し、「そうだ」と再び閃いた。
確かテレビって本体にも主電源があって、そこを押せばリモコンがなくても点くんだよな。
物の少ない部屋で普段からそんなに散らかさないおれはリモコンが見つからないなんて滅多にないのだが、自分の機転に少し嬉しくなってテレビの近くに移動した時だった。
ゴトリと。
黒い天板に、同じく黒いテレビのリモコンが置かれたのを理解するまで、一瞬の間が空いた。
その炬燵の天板の向こうには、下を俯いたままこちらを向こうとしないあかねの姿…。
「あ、ああ、リモコン見つかったか…」
別にこんなことくれーでそんな怒るわけねえのに。
まるで怒られるのを覚悟している子供のような態度でじっと肩を縮めている。
……。
「あかね」
…違うよな?
違うなら、頼むから早く違うと言って欲しい。
「あかね、聞いてる?早く帰んねーと…」
だけど、ああ…。
自分の声にまるで説得力を感じない。
ただ、おれはちゃんと言ったぞという体裁のように。
ただ、男の義務として責任感のある態度をアピールするように。
「ほんとに電車が…なくなっちまうから……」
「…」
……。
あのな、あかね。
あかねにはそんなつもりなくても、やっぱりおれは男であかねは女だから、考え方も違うんだよ。
実家にいた頃みてーに、二人きりの空間にいたって何も起こりませんなんて、そんな保証はどこにもねーんだぞ。
だけど「じゃあどうしたいの?」と聞かれれば、それはそれでおれだって言葉に詰まっちまうくせに。
あかね…。
……。
「…乱馬の嘘つき」
「え…?」
「本当は雪が降ってることも知ってて、電車だって遅れてるかもしれないって知ってたくせに」
「…」
「それでもあたしにそんなこと一言も言わないで…」
「それは……」
「…」
「…悪かったと思ってる。ごめん……」
だからさっき謝ったじゃねえか、とは言えなかった。
確かに帰宅するタイミングを引き延ばしたのはおれで。
あかねにこの部屋にいて欲しくて。
少しでも時間稼ぎするように、せこい真似をしたのは全部おれの仕業だ。
「ごめん……」
「…謝ってなんか欲しくない」
「…っ」
じゃあ、一体どうすればいいんだよ。
こうしてる間にも時間は刻々と過ぎていて、帰る手段だってはっきり言って絶望的だ。
本当はおれだって思っている。
一人だけコートを羽織って帰る体(てい)を見せてるけど、こんなのただの言い訳みたいなもんじゃねえか。
もしかしたら殴られるかもしれねえな。
そう思いながら、ゆっくりとあかねの横にしゃがみ込む。
「あかね、ごめん」
「…」
「おれもちゃんとおじさんに一緒に謝るから」
「…」
「あ、なんだったらおれ、今晩はどっかで時間を潰すから、だからあかねは――」
「あんなのまで買ってきておいて…っ」
取り繕うように提案するおれの言葉をぴしゃりとあかねが遮る。
「…それでも本当に乱馬は、あたしに帰って欲しいの?」
「あかね?…な、何言って…」
「…あたしね、今から急いでここを出れば、最寄りの駅じゃないけどなんとか家に帰れるの」
「……!」
「……どうする?」
「ど、どうするって……」
「……」
ありえねえ。
まるで心臓が耳の真横に移動してきたみてーに、自分の鼓動がドックンドックン跳ねているのがわかる。まるで体中がサイレンになっちまったみてーだ。
― だけどこれは夢でも妄想でもない。
目の前にいる、真っ赤に顔を染めたあかねの姿を見てそう思う。
そしてこんなことを言わせてるのは……
ぎゅっと握った拳の爪が手の腹に食い込む。
じっとりと汗ばむ感触に、今日が極寒の雪の日だということすら忘れてしまいそうだ。
早く答えなきゃいけない。
答えてやんなきゃいけねえのに、パクパクと声を発することなく口だけが動くおれに痺れを切らせて、あかねがぽつりと呟く。
「…わかった」
「…っ」
わかったって。
一体何がわかったっていうんだよ。
おれがどんだけ我慢してんのか、あかねに何がわかるんだ。
…だけど。
わかろうとしてねえのはおれのほうじゃねーか。
時計を見ようとしなかった視線の行方を。
テレビのリモコンがなくなった意味を。
赤く染まった頰のワケを。
頭に乗っかっていた雪を見逃してくれた、あかねの気持ちを。
「……あたし、やっぱり帰――」
「…あかねっ」
声がきれいに重なるのは、今日三度目だった。
今、あかねを感じられるなら怒られても殴られてもいい。
ただ、爆発するように愛おしい感情だけで。
あかねのその台詞を最後まで言わせないように抱き締める。
遠慮とか
躊躇いとか、
それを突破して押し流す衝動の波。
「あかね、帰るな…っ」
もう返事を聞くつもりはない。
例え、それが了承の言葉でも。
胸の中であかねの吐く息がぶつかる。
この腕の中にあかねがいる。
それだけが今のおれにとって全てで。
ぎゅっと一度、背中が軋むくらいに抱き締めた華奢な身体の肩を押し返すと。
今度こそ互いに余計なことを言わないように、その唇をおれの唇で塞いだ。
comment
(すみません💦根は真面目なはずなんですよ)
もー、前半の探り合い(愛)に分かる分かるよ~と乱馬とあかねちゃんに同意し、やっぱりあかねちゃんを気遣える乱馬に男を感じ、タイムリミットが題名だぁー!とハッと思いだして、嘆き悲しみ。どうするの?どうなるの?とドキドキしていたらまさかのあかねちゃん自らのリモコン隠し!やられました(笑)最後の乱馬の台詞を読んで完全に私の心はK.O.されました(///ω///)♪
もうね、なんと申し上げたらよいのか言葉にできません。言える言葉はただひとつ!
師匠!最高(≧∇≦)💦💦あっヨダレ飛んじゃいました。今日は爆発的感動をありがとうございました✨✨
コメントも暴発していてすみません(*´∀`)♪
こんばんは☆
心の叫び、ウェルカムです✨。っていうか、隣で主人がドラマ(嘘の戦争?)を大音量で観ていて
絶対創作出来ずにプチイライラな中、ひなたさんのコメントに癒されております(´▽`*)♡
あ、でもヨダレ飛んだにはリアルにふきました(笑)。
探り合い、ありますよね~。
帰らないでと言って欲しいけど自分から言いたくない心理戦、かつて私も乙女だったぁ…。←遠い目
かといって無責任に軽く帰るなと言われるのも腹が立つし(笑)。恋愛って難しいな。
そしてタイトルに引っ掛かっていただき、ありがとうございます(´艸`*)♪
もちろん、タイムリミットがテーマになっているのですが、タイトルにしておくとよりハラハラして
いただけるかな、と(笑)。
男女の葛藤、そしてもう一つのテーマは「嘘」なんです。
リモコン隠しのあかねちゃん、なかなか可愛いでしょ♡
もちろん、ここまでの流れもそうなんですが、これからどうなるのか…その辺もニヤニヤしながら
お付き合いください✨。
にしても、ぶっつけ本番のプロットなしなのに今回は気分が乗っている…やっぱり勢いって大事でした(^▽^;)。
おーんおんおん嬉しい…(((o(*゚▽゚*)o)))♡
乱馬くんが帰りを促してる辺り、そーだよな、おじさんのこと考えるとそーだよなあ。優しさ…か。でも〜(;o;)あかねちゃんはその優しさ望んでる…の⁇とハラハラしてたら。あかねちゃん!リモコン隠してくれてありがとう( ;∀;)可愛い抵抗におでこツーーーーーンだぞ♡
やっと「帰るな」と言えた乱馬くん!
愛しくて愛しくて仕方ない同士なんだから側にいてよーーーーーう‼︎切実な願い♡
もーこんなハラハラドキドキ(*´꒳`*)kohさんLOVEのスペシャリストじゃないですかーー‼︎
こんなトキメク心の潤いをありがとうございます(*´꒳`*)
二人が意識しすぎて関係ない話する所とか、あかねちゃんの帰りたくない気持ちや、乱馬の帰したくないけど必死に自分を抑えようとする気持ちに(あんなものまで買ってきておいてーっ←しかもバレてる!😱)、すごーく共感してしまって胸が苦しくなったり、覚悟を決めてリモコン隠したあかねちゃんの気持ちを理解した乱馬の緊張感とかが伝わって、もう本当こちらまでドキドキしました…。
これまでの過程があって、やっと抱き合えて触れられた二人が本当に愛おしいです!!
この続きも引き続き楽しみにしています♡
あぁ、いじらしい、もどかしい、早く!早く!と2人の進展が焦れて焦れてたまりません!!この焦らしっぷりがkohさんの十八番だなぁ(らんまで十八番の言葉を覚えたw)と思いましたw次回こそ2人が進展した姿を見たいですぞ!よろしく頼みますよkohさん……!!!😭😭😭😭
こんばんは☆
昨日はコメントありがとうございました✨。
先週の罪滅ぼしのため、週末は子供DAYに充てていたのでお返事が遅くなってしまってスミマセン💦。
それにしても、ようやくここまで来ました(笑)。
確かに今回、全て乱馬視点なのであかねちゃんの心境がわかりにくいですよね。
まだ少しずつ(少しか?)謎を残しているので、そこら辺も徐々に明らかになってくると思います。
(じゃないと、今のままだとあかねちゃんがただの情緒不安定な子になっちゃう 汗)
そして何といっても私は天の邪鬼ですので(笑)。
もしかしたらまだ「んん?」が出てくるかもしれませんが、そこら辺もニヤニヤしながら
最後までお付き合いください(´▽`*)♡
PS. 私は朝も夜も異常に強くて起きた一秒後から動ける自信があるのですが、私以外家族はみんな低血圧…。
本当に動けないので毎朝余裕がなくって大変で。私にはわからない悩みだといつもツッコまれてます💦。
こんばんは☆
この度はご返信が遅くなってしまってすみません💦。
RA♪さんのパワーみなぎるコメントに昨日は一日分の元気をいただきました(´▽`*)♡
そしてそして、とうとうここまで来ました(笑)。
「可愛い抵抗におでこツーーーーーンだぞ♡」に、「あれ?私、良牙の話書いてたっけ?」って
一瞬錯覚しそうになりましたが(汗)、私のお話はどれもこれも
ちんたらゆっくり進む分、二人が素直になるとちょっと嬉しいですよね♪←お前が言うな
そして、ここまで来たならもうちょいRA♪さんをときめかせてみようじゃありませんか(笑)。
それがどの程度かはまだ???ですが、もうしばらくお付き合いくださいね♡
こんばんは☆
昨日はコメントをいただきありがとうございました✨。
先週の仕事の罪滅ぼしと、今晩は去年から決めていた自分のためのご褒美DAY(なんのことはない、三浦大知さんのLIVEです)だったので、昨日は一日PCを閉じて子供に付き合っていました(^▽^;)。
やっと…やっとです✨。
私の中の妄想ではある程度、あーでこーで…とあるので「ああ、やっとここまで書けたかあ」と思うのですが
読んでくださっている方はヤキモキしますよね💦。特に今回はあかねちゃん視点を敢えてまだ伏せているので。
あ、ちなみにひとつだけあんずさんに言っておかなければならないことが。
私、本当に根がひねくれ者なんです(笑)。
なのであんずさんのコメントを拝見した時、思わず「よしよし♪」とニヤニヤしました(´▽`*)。
ああ、なかなか終わりが見えそうで見えないこのシリーズ…。
とはいえ、今後は基本……(←?)なので、ゆっくりお付き合いいただければと思います♡
こんばんは☆
毎日お仕事と育児、お疲れ様です✨。今年は降雪も多いみたいですから大変ですよね(>_<)。
私は夏しか北海道に行ったことがないのですが、天気予報を観て我が目を疑っています💦。
にしても、今シリーズは私の趣味(?)全開で突っ走っていますね(´▽`*)。
ゆっくりゆっくり、焦れ焦れが書きたくて、いっそこのままずっと焦れてても…と思ったのですが
さすがにそれは消化不良を起こしそうなので少しずつ進展させました(^▽^;)。
そして私、ズバリ“忍耐の子”ですので、今後どうなるか…ふふふ。
(とかいって、要は行き当たりばったりなので毎回その日に書いて投げてるだけなんです💦)
まだもう少し続きそうですので、またお暇な時にお付き合いくださいね♡
こんばんは☆
必殺リモコン隠しの術、なかなか可愛いでしょ?(笑)
でも今、我が家で子供達がこれをやったら「さっさと出しなさい!」と怒られること間違いないのですが。
夢がないってやあね…。
そして憂すけさんのコメント、タイムリ~♪
今後、ね…ふふふ。もう想像するだけでキャー♡となったり、え、そ、そうなの!?とガクッときたり(?)
いやいや、でも…!となったり……
す れ ば い い な ぁ 、
と思っています(笑)。
一つ言えることは、私は素直な奴ではございません(´艸`*)。あ、もう知ってる?
よくもまあ、行き当たりばったりで書いているなぁとは思うのですが、もうしばらくだけお付き合いください。
コメントを送る。