1. スキだらけ 

2016/11/16
こちらは一時的にpixivへ投稿していた作品になります。
いただいたコメントなどはそちらにございます。



【 スキだらけ 】



「ひい~!えらい目に遭った!」

そう言って騒がしく居間に飛び込んできたのは チャイナ服を着たおさげの少女。
寒い寒いと手をこすり合わせながら、あたしが座ってテレビを観ているこたつの斜め右隣りに転がり込んでくる。


「ちょっとらんま、外から帰ったんだったら手洗いうがいくらいしなさいよ」

「る、るせーな、い、今しようと、おおお思ってたんでぃ」


相変わらず偉そうな物言いをしながらもその身体は男の時の乱馬に比べて一回り以上も小さく、赤い髪のおさげの先からはポタポタと水滴が滴って水色のチャイナ服の背中に一段濃い染みを作っている。

華奢な肩はガタガタと震え、帰ってくる途中に何があったのかは何となく察しがついた。



「あんたねー。もうすぐ12月になるっていうのに水浴びして来てどうすんのよ」

「アホ!す、好きで、み、水を浴びたわ、わけじゃ……あー、寒くて、うう上手く呂律が回んねえ」

「まったく…とにかくお湯を沸かしておくから、手洗いうがいをして着替えを持ってきなさいよ」

「お、おう」



一瞬こたつから出るのを躊躇うような表情をしたものの、えいっと勢いをつけてドスドスと音を立てながら洗面所へ向かっていく。その後ろ姿を確認すると、あたしもお湯を沸かす為に一度こたつの外へと出て台所のガス台の前に立った。


「さむ…っ」


暖かいこたつの中から底冷えするタイルの上に移動すると、足元から一気に冬の冷気が駆け上がってきてセーターの下の肌が粟立つ。

やかんの口からほかほかと柔らかな湯気が立つのを合図に火を止めると、着替えを手にした乱馬が再び居間に戻ってくる気配がした。




「はい。お湯かけるからちょっとこたつから出て」

「おう」


ちょうど取り込んだばかりの洗濯物の山からタオルを抜き取って乱馬の肩に掛ける。

その上から乱馬の頭目掛けて出来るだけ下にお湯がこぼれないようにそっとやかんの湯を注ぐと、湯気の下で途端にむくむくとそのシルエットが男のものになるのだから不思議なものだ。


「あー、生き返ったぜ」

「まったく。こんな時期に濡れたままじゃ風邪引くから さっさと着替えちゃいなさいよ」

「へいへい」


言われなくってもわかってらぁ。まるでそう言うように おもむろに濡れたチャイナ服を脱ぎ捨てると、そのまま下に着ていたタンクトップもベシャリと脱いで新しい服に身を包む。

あのねぇ。

いくら男の姿とはいえ、いきなり目の前で堂々と着替えられるとこちらの方が戸惑うわけで。

何となく乱馬の上半身を直視できずに、脱ぎ散らかしたままの服を拾って手に取る……と。




ん?



「ねえ、これって猫の毛?」

「あん?」

「ここ。この肩の部分」



そう言って指でさしたチャイナ服の肩の部分には白くて細い毛が付着している。

犬の毛とは違う、もっと細くてもっと柔らかそうな短く白い動物の毛。


「ああ、それは学校の帰り シャンプーに追い駆けられてたら途中で一緒に水をかぶってよー」

「…ふーん」


追い駆けられてたら一緒に水をかぶって、ねえ。

なんだかそれって、聞きようによっては随分と親密な感じじゃない。

大体 水をかぶって猫に変身してしまったシャンプーの毛が乱馬の肩に付いているということは、それまでにどんなやり取りがあったのかも容易に想定出来る。

思わず一段低くなったあたしの声を聞いて乱馬も何かを感じ取ったのだろう。

牽制するように両手を胸の前で開いて見せながら、途端に言い訳がましいことをつらつら喋り出した。


「あ、あのな?誤解すんなよ?た、たまたま帰ってる途中で出前帰りのシャンプーと遭遇して、おれは止めろっつってんのに無理矢理シャンプーが――」

「誰も何も言ってないでしょ」

「い、言ってねーけど おめーが何か言いたそうな目でおれのこと見るからよ」

「別に。もしもそう思うんだったら、何かやましいことが乱馬にあるだけなんじゃないの?」

「そ、そんなやましいことなんて おれにはこれっぽっちもねーぞっ!?」

「はいはい」


まったく往生際が悪いんだから。

そりゃー確かに服についてるのは猫の毛かもしれないけど、これが人間の姿だったらシャンプーのあの長い髪の毛なのかもしれない…。そう思うとあたしとしては何とも面白くないわけで。

適当に畳んだ服を押し付けるように乱馬に渡すと、あたしは再びこたつの中に潜り込む。

そんな穏やかではない空気を変えるように乱馬が再び口を開いた。



「それより みんなはどこ行ったんだ?」

「かすみお姉ちゃんはお買い物。なびきお姉ちゃんはまだ学校。お父さん達は町内会の集まりに出掛けてるけど、そのうち帰ってくるでしょ」

「そっか」

「……」

「……」

「……」

「……」

「…なあ」

「なによ」

「んな怒るなよ」

「別に怒ってないわよ」

「嘘つけ。その態度が思い切り怒ってんじゃねーか」

「だから怒ってないってば。ただ…」

「ただ?」

「ただ、乱馬って口のわりには隙だらけだなーと思って」

「はあっ!?このおれが隙だらけ?」


先程と同じようにあたしの斜め右隣でこたつに入った乱馬が、心外と言わんばかりに大きな声を出す。

なによ、自分で全然自覚がないわけ?



「だってそうでしょ?ただでさえ特異な変身体質なのに人の十倍水は被る、猫が嫌いなのに猫の毛をつけて帰ってくる…どっからどう見ても隙だらけでしょうが」

「そ、それは…っ!今日はたまたま不幸な偶然が重なってだなあっ」

「はいはい。せっかくシャンプーと仲良くしてたのに不幸にも水を被っちゃったのね」

「だーっ!人の話を聞けっ!」


ああ、またいつものこんな感じ。

せっかく、束の間とはいえ二人きりでお留守番だというのに これじゃあ甘い空気になんてなりようがない。

乱馬はというと「隙だらけ」と言われたのがよっぽどカチンと来たのか、明らかに挑発するようなジトっとした目つきであたしの方を向いて憎たらしいことを言ってくる。



「そもそも隙だらけのあかねにだけは言われたくねーよなぁ」

「なによ、あたしのどこが隙だらけって言うのよ」

「おめーなんか今朝も九能に抱きつかれそうになってただろーが」

「抱きつかれそう、だっただけでしょ。本当に抱きつかれたわけじゃないもの」

「アホかっ!あれは咄嗟におれが庇ってやったからだろーが」

「別に乱馬が庇ってくれなくっても、先輩くらい自分で放り投げられるもん」

「ったく、ああ言えばこう言いやがってかわいくねーな」

「かわいくなくって悪かったわね」


そりゃあね。

確かにあたしにもっとかわいげがあったら今頃 少しは乱馬との関係も変わっていたかもしれないけど。でもこれがあたしなんだから仕方ないじゃない。



「…大体、昨日だってムースに抱きつかれやがって」

「あ、あれは…っ!あれこそ、交通事故みたいなもので防ぎようがないじゃない。しかもムース本人だってシャンプーが相手だと思い込んでるわけだし」

「っつーか、あいつがシャンプーと上手くいかねーのは こんなずん胴女にほいほい抱きついてるからなんじゃねーのか?」

「誰がずん胴ですって!?」


そう。

もしもあたしがシャンプーだったら、いくら自分と思い込んでいるとはいえ 他の女の子にむやみに抱きついちゃう相手はちょっと嫌かもなぁ…なんて乱馬の言葉に半分同意しつつ、もう半分は同意出来ないずん胴発言に対してめり込んだ拳を乱馬の頬からそっと外す。



「お、おめーなあ、少しは手加減しろよっ!」

「なによ。元はと言えばあんたが失礼なこと言うから悪いんでしょうが」

「ったく色気のねー女」

「色気がなくって悪かったわね」

「あんのは隙だけかよ」

「あたしのどこに隙が――」

「ほれ。髪の毛にゴミが付いてる」



そう言ってふっと触れられた頭上の手に、思わずドキリと跳ねるあたしの心臓。


「あ、ありがと…」

「おう」


見ると今取ったばかりの小さな羽毛の羽を 乱馬がふっと息で飛ばしている。

さっきまでこたつの中でゴロゴロしていたから、おそらくその時に掛け布団の中から出て来た羽毛が髪の毛に付いてしまったのだろう。

そんなのを髪の毛に付けてたなんて、なんだかちょっと格好悪い。

あ、でも……。


「とか言って 乱馬も髪の毛に葉っぱが付いてるじゃない」

「へ?」

「ほら、これ」


指先で摘んで見せた小さな小さな葉っぱの欠片。

乱馬は「何だよ、んなの付いてても付いてなくても一緒じゃねーか」と口を尖らせてるけど、一応これで引き分けよね。

それが面白くなかったのか、元来負けず嫌いの乱馬がムキになって言い返してくる。



「んなこと言ったらあかねなんか頬っぺたに何かついてんじゃねーか」

「え?」

「…あ、わりい。何かついてると思ったら自前の大福だったわ」

「ちょっと!」


「いやー、ぷにぷにしてっからわかんなかったぜー」と愉快そうに笑ってるけど、全然面白くないんだから!

なによ、そっちがその気なら…



「そう言う乱馬だって顔につけてるじゃないの」

「お、おれの顔のどこに…っ」

「そのいやらしそうな目。いーっつもシャンプーの前でデレデレしちゃってみっともない」

「デ、デレデレなんかしてねえっ!っつーか、おれの顔を見て よくもそんな台詞が言えるよな!?」

「あんたの顔なんかいくら見たって何とも思わないわよ」

「…言ったな!?」





ふわり、と。




いつの間にこたつを出たのか あたしの視界が急に天井を向くように傾いたかと思うと、乱馬の胡坐の上で横向きになる形で抱きかかえられているのに気が付いた。



「ちょ、ちょっと!?」

「ほらなー。やっぱあかねのほうが隙だらけじゃねーか」


…って。

そういう問題じゃないでしょう!?

斜め下から不安定な体勢で乱馬を見上げるこの角度。どこかで身に覚えがあると思ったら、いつぞやの道場でもこんなことがあったと思い出す。

ただ あの時と違うのはすぐに二人の身体が離れるのではなく、そのままの体勢であるということだ。


(ど、どうしよう…)


あたしの意思なんか無視するようにドクドクと急速に高鳴る胸の音。

背中に回された腕の感触と触れる乱馬の体温を自覚すればカクカクと自分の身体が震えるのは多分、こたつを出た寒さが原因だけではないはずだ。



「ん?どうしたんだよ、おれの顔なんか見たって何とも思わねーんだろ?」


そう言って愉快そうにわざと覗き込んでくるその目、その顔。

はっきり言って、癪だけど。

すごくすごく悔しいけれど、あたしの鼓動が一層速くなるのを感じて 思わず胸の前の洋服をぎゅっと手で掴む。

それでも素直になれないのがあたしなわけで、高鳴る胸の音とは裏腹に虚勢にも似た強がりが口を衝いて出る。


「そ、そうよ、別に何とも思わないわよっ。だって…」

「だって?」

「だ、だって、別にこんな近くで見たって、乱馬とどうにかなるなんてありえないもの!」



そう。

今までだって何度かいい雰囲気になることはあっても、あたしたちの間には何もない。

きっとクラスメイト達は「いやいや、そうは言ってもキスくらいはしてるんだろう?」なんて思っているようだが、あの猫化の時を除いて本当にないものはないのだ。


だから今回も。

今回だって。


そう思って顔を逸らしたまま言い放った後、ちらりと見上げた乱馬のその表情に。

今度こそ、ドクンとあたしの心臓は撃ち抜かれた。




「どうにかなるって、例えば何?」

「た、例えばって……」

「あかねが言ったんじゃねーか。おれとどうにかなるなんてありえねーって」

「そ、それは…」

「そのどうにか…って、何?」



乱馬って。


乱馬って、こんなに睫毛が長かったっけ?

はっきりと濃く黒い瞳、あたしより日に焼けた肌、昨年よりもシャープになった顎のライン、首の詰まったチャイナ服でもわかる 女のあたしとは違う喉仏…。

なにより、こんな真剣な表情を見せる乱馬に 滑稽なくらいにあたしの鼓動が早鐘を打つ。



「ど、どうにかって…だから…っ」

「……」

「そ、その……」

「……」



……ダメ。

いつもだったらもうそろそろ、「バーカ、冗談だよ」と解放される頃合いなのに いつまで経ってもその時が訪れない。

まるでお互いの意地の張り合いのように、あたしを捕らえる乱馬に 乱馬から逃れられないあたし。


先に根を上げたのはあたしの方だった。




「わ、わかったわよ、もうっ!あたしの方が隙だらけでした!どう?これで満足?」

「ふーん…。まあ、それはそれで悪くはねーんだけど」


そう言って少し表情を綻ばせながら、だけどあたしを支える腕には一層の力が込められる。


「だけどさっきの答えをまだ聞いてねーんだよな」

「さっきの答えって?」

「だから。おれとどうにかなるなんてありえねーってやつ。あかねは一体何を想像したのかなーと思ってさ」

「…っ!」


ニヤニヤと笑うその表情。

…間違いない。わかってて聞いてるわけね!?

そうやってあたしが返答に困るのを楽しむだけ楽しんで、そしてまたいつもみたいに最後は「わはは、誰がおめーなんかと」って笑い飛ばすに決まってるんだわ。



(そうはいくもんですかっ)



あたしは出来る限り平静を装うと 素っ気なく応える。


「…別に。ただちょっと、お父さん達が期待するようなことを想像しちゃっだけよ」

「へっ?お、親父達が期待するって…っ」


途端にわかり易いくらい動揺を見せる乱馬。

ふんっ。あたしが強気になると逆に乱馬がたじろぐことくらい、とっくに想定済みなんだから!

形勢逆転とばかりに尚もあたしは続ける。

とはいえ、流石に"キスのことよ"と直接言うのは憚られ、


「だってあたし達、一応は許嫁同士なわけじゃない?だから、その…そ、そういうことくらいはしてるんだろうなーって周りが思ってることをあたしも一瞬想像しちゃっただけ」


なんて ものすごく分かりにくいような回りくどい言い方になってしまったのだけど。

それでもあたしの言いたいことが伝わったのか、カアッと顔を赤らめた乱馬の身体が一瞬強張るのを感じた。

なによ、言えって言ったのはそっちのほうでしょ?

本当はドキドキし過ぎて頭がくらくらするけれど、ここで「なに期待してんだよ」とバカにされることほど恥ずかしいことはない。

もうそろそろ乱馬の方から降参するのを予想して

「ま、乱馬にそんな度胸あるわけないだろうけど」

と最後に強がりを吐いた時だった。





「誰に度胸がねーだって?」



思いがけないほど耳のすぐ近くで聞こえた声。

思わずその声の方を向くと、あり得ないくらいに近い距離で乱馬の視線とあたしの視線がぶつかった。



「あ、あの…乱馬?」

「言えよ。誰が隙だらけで度胸がねーんだ?」

「そ、それは…っ」

「……」

「だ、だからさっき認めたじゃない、あたしが隙だらけでしたって。も、もう、それでいい――」

「いや、よくねーな。男が度胸ねーなんてバカにされて それで黙ってられると思うなよ?」

「あ…」

「……」

「……」

「あの…」

「…ホントに度胸がねーか……」

「…っ」

「…………るか?」

「え……?」

「だ、だからっ!ホ、ホントに度胸がねーかどうか、た、試してみるかっつってんだよ!」



…って。

え?

え?

そ、それって……。



無理のある姿勢を続けているせいなのか、それともただ単に頭の先までのぼせ上がっているだけのせいなのか。

まともな思考能力を失ったあたしの頭の中では「どうしよう」が無限ループのように繰り返される。


それって。

キス……してみるってこと?

それは乱馬の本心で?

それとも単なる意地の延長戦?

あたしからどう答えればいいのか、どう受け止めればいいのか。

ドラマでも観たことないようなシチュエーションに、あたしの思考は「どうしよう」の言葉で埋め尽くされる。

それでも、ショート寸前の頭と心で感じたのはただ一つ。



(…………乱馬と、だったら)





そんな どう答えていいのか分からず、ただ目だけを泳がせるあたしの様子に乱馬も少し不安になったのだろう。

先程より少しだけ声のトーンを落とすと、今度は確認するように口を開く。


「べ、べべ別におめーが嫌なら 無理にとは言わねーけどさ」

「……」

「……」

「……」

「……あの…」

「……乱馬は?」

「へ?」

「乱馬は…どう、なの?」

「お、おれっ!?」

「そう」



途端に顔からダラダラと汗を垂れ流しそうな表情で「お、おれは別にっ……なあ?」だなんて、とてつもなく中途半端な言葉であたしの質問に言葉を濁す。





……。



「い、意地で…とかだったらお断りだけど……」

「…」

「…」

「…」

「……乱馬が嫌、じゃないんだったら」

「…っ」

「だったら……いいよ」

「っ!」




きっと。

もっとかわいい言い方だって沢山あるのかもしれない。

だけどあたしにはそう言うだけが精一杯で。

言ってしまった後に襲ってくる猛烈な恥ずかしさを誤魔化すように、乱馬の身体とは正反対にあるこたつ布団の柄をじっと見つめていると 頭の上からおずおずと、でも確かに小さな声が降ってきた。



「おれは……い、嫌なんかじゃねーっつーか……」

「…」

「そ、その、あ、あかねさえ嫌じゃなければ……」

「…っ」

「その、ど、どっちかっつーと………………お、おれは、し、…てみたい……っていうか……」

「っ!」



最後は聞き取れるか聞き取れないかわからないような、小さな小さな乱馬の声。

その声が小さければ小さいほど乱馬の飾らない本心のような気がして。

思わず顔を上げると、今まで見たこともないような複雑な表情をした乱馬の顔がすぐそこにあった。


恥ずかしいような。

言ってしまったというような。

こんなの、おれのガラじゃねーと叫び出しそうな。

だけどそれ以上に期待を秘めているような。


こんな表情、見たことない。



「あかね……」

「…っ」


ただ名前を呼ばれるだけなのに、身体の奥にズクンと衝撃が走る。

恥ずかしくて逃げ出したくなってしまっているのは、多分あたしも一緒。

それでも それ以上に乱馬の気持ちに近付きたい想いが勝って、無言でぎゅっと乱馬の服を掴む。

瞬間、より一層あたしを支える乱馬の腕に力が込められるのがわかった。




「……あ、あの…」

「…」

「…あかね、さっき自分で認めてたよな」

「何を?」

「その……お、おめーが隙だらけってヤツ」

「あ…う、うん」

「…………"すきだらけ"のあかねのせいだからな」

「乱馬…?」



その名前を呼び終わるかどうかという時。

ゆっくりと大きな手の平があたしの視界いっぱいを遮ったかと思うと、その後にふわりと。

温かくて、少しだけかさついた感触が唇に降ってきた。





「…っ」




一瞬重なった体温が 再び空気を挟んで離れていく。





「…」

「…あ」

「…」

「…」

「…」

「…乱」

「……その、さ」

「え…?」

「ど、度胸がねーっていうのも、違っただろ?」

「……うん…………今回だけは、そうかも」





でも。






「……どうせなら度胸試しじゃなくて 普通にして欲しいな…」

「…っ!」



そうして 今度こそ素直になったあたしの唇に。

今度こそ自然に目を閉じたままで、再び乱馬の唇が重なるのを感じた。







なんとなく乱馬の顔が見られなくて、硬い胸に埋めるようにぎゅっと自分の顔を押し付ける。それを待っていたかのように強い力で抱きしめ返されるあたしの身体。

こたつの外に出て寒いはずの身体は髪の先から足のつま先まですっかりのぼせ上がってしまっていて、じんじんと痺れるような火照りすら感じる。

はあ…と緊張を解きほぐす深い溜め息が無意識に吐き出されれば、「なに溜め息なんかついてんだよ」と照れ隠しに意地悪な言い方で返ってきた。

それに応えるように「ううん」と首を振ると 思い出したようにあたしは口を開く。



「……お父さん達、遅いね」

「おめーなぁ…こんな時なのに急に現実的なこと言うなよ」

「だって…」

「もうすぐ帰ってくんだろ」

「そうかしら」

「…………だからもーちょい…このまま」

「……うん」




乱馬の言う通り、もう少しだけこのまま。

だけど、ただ黙って抱き合っているだけっていうのが恥ずかしいのはお互い様で。



「…にしても、やっぱり隙だらけはあかねのほうだったな」

「何言ってんのよ。あれはあたしが大人になって折れてあげたんでしょうが」

「へーへー。ま、どのみち あかねがおれを"好きだらけ"ってのは違いねーんだけどな」

「それはあんたのほうでしょっ」

「お、おれは別に…っ!」

「あ。認めてくれないんだったらいいわよ」

「何がいーんだよ」

「だから、その……認めないんだったら もう二度としないから」

「はあっ!?ふ、ふざけんなよっ、急に強気になりやがって!」

「なによ、そんなの自分だって同じじゃない」

「か、かわいくねー女だなっ!」

「かわいくないんだったら腕を離せばいいでしょ」

「~っ!」

「苦し…っ、もう!窒息するでしょうがっ」

「るせえっ!二度とそんな口が利けねーようにしてやる!」

「あんたねえ…っ」













…一方、そんな居間の扉の向こうでは。




「いやー、めでたい!めでたいねえ、早乙女君!」

「長かったねえ、天道君!」

「乱馬。それでこそ、男の中の男ですよ」

「っていうか この寒空の下、いつまでも外で待たさないでほしいわよね。まったく」

「お夕飯、どうしましょう。このままじゃ台所に入れないわ」


五人五様、思い思いに好き勝手を並べ立てる。


「天道くん!かすみ!なびき!ここは一つ、気を利かせて夕飯は外で済ませてこようじゃないか!」

「いいねえ、天道君!今晩はこのまま祝杯だね!」

「気を利かせた結果、そのまま二人がお布団コースに突っ走っちゃったらどうすんのよ、お父さん」

「まあ。それはそれで男らしくて立派だわ、乱馬!」

「もしもあかねが料理を作ったら それはそれで乱馬君はお布団コースよねぇ」

「まあ、そうなるでしょうね。…あ、待ってよ!せっかくだから写真写真……!」





そんな家族会議が行われているとは、知らぬが仏の二人の姿。

その幸せな時間が邪魔されるまでは、あともう少しだけこのままで ―。






< END >







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comment (2) @ Omnibus 男・こたつ・つれない・許嫁-冬

   
隠す気すら起きない本音です…。  | pixivより回答が届きました 

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2018/05/11 Fri 07:59:06
Re: ありがとうございます。 : koh @-
Y~コメント主様

お返事したつもりがなぜだか上手く反映されていなくてすみません!(今気づきました💦)
そして過去のお話にもあたたかいコメントをいただき、感激しています。
(今もそうなのですが)当時は特に高校生編を書くのが苦手で、原作のモダモダ感を残しつつちょこっとだけ甘く、そしてかわいく書けたらいいなぁと四苦八苦していたのが懐かしいです^^。
確かに原作を読んでいた時は「あー、もうさっさとくっついちゃえばいいのに!」って思いましたよね。
その「さっさとくっつく」が出来ないからこうして二次創作が滾るのですが笑。
コメント主様の仰る通り、乱馬とあかねだけではなくどのキャラも個性が立ってるのが面白いですよね~。
なので台詞だけでも十分遊べちゃう楽しさがあります^^。
もしかしたらコメント主様は原作からちょっと経ったくらいの、大人になる手前の二人のお話がお好きなのかな?なんて想像しながら、嬉しくコメントを拝見させていただきました。
またコメント主様のお気に入りを見つけていただけるととっても嬉しいです♡
コメントありがとうございました。
2018/05/14 Mon 22:48:54 URL

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