冬とこたつと犬と猫 

2018/02/06
文庫verの下に通常の横書きがございます。



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【冬とこたつと犬と猫】



「お、宿題終わったか」

 二階の自室から気分転換に降りてきたあたしを見て、カランと凍えるような響きを立てる。
 ほかほかと茹だった肩の上にはボタンの留められていないパジャマが羽織られ、あろうことか目の前の天板には氷入りの飲み物。そう、この超がつくような寒い夜に、風呂上がりの乱馬は氷入りの炭酸飲料を飲んでいるのだ。
 そんなあたしの右手には、乱馬とは対照的に白い湯気を立てたココア入りのマグカップが握られている。

「あんたね、いくら風呂上がりだからってそんな冷たいもの飲んでたら風邪引くわよ」
「んなやわじゃねーよ」

 本当はそのまますぐ二階に戻るつもりだった。だけど予想外に誰も居間にいないから。
 乱馬の隣が空いてるから。
 心なしか乱馬が少しだけ左の隅にお尻を浮かせた気がしたから、こたつの布団を捲って隣に座る。

「あ、あったかい……」
「やっぱ冬はこたつに限るよなー」
「こたつで蜜柑とか?」
「そーそー。あとアイスな」

 へへっと笑う乱馬の周りだけ少し温度が高く感じるのは風呂上がりのせいだろうか。それとも勉強疲れがそう思わせてるだけ?
 またカランと氷の音が鳴る横で、あたしもマグカップに手を添える。

「そんなの飲んで寒くないの?」
「全然」
「あっそ。あたしはその音聞いてるだけで寒くなるわ」

 唇に近付けたカップから漂う蒸気が顔の表面をしっとりと覆う。
 これぞ冬だなぁ。
 ふぅっと一息吹き白い湯気を飛ばし、口に含んだ時だった。

「あっつ……!」

 小鍋でぐらぐらと煮立てたこっくり甘みのあるココアが容赦なくあたしの舌に触れる。その予想以上の熱さに思わず口を離せば、弾みでこたつの天板に茶色い液滴が散った。

「なにやってんだよ」
「だって熱かったんだもん」

 先を冷やすように前歯で噛んで舌を出す。ぴりぴりとひりつく舌先はまるで弱い電気が流れるように、空気に触れるだけでも痛いほど過敏だ。
 そんなあたしを呆れたように見つめながら、乱馬が自分のグラスから氷を一欠片指に取る。

「なに?」
「あかね、さっきみたいに舌出せって」
「い、いいっ。大丈夫!」
「いーから」

 そろりと出した舌先に軽く押し当てられる氷の塊。それが表面で溶け、薄い水の膜が舌の上に広がっていく。

「ん……、」
「いてーか?」

 少し。そう答えたつもりで頷くと、違う指で氷を持ち替えて尚も当ててくる、そこの感覚はもうない。
 冷たいのか、熱いのか。
 痛いのか、それとも自分の身体の一部とは思えないところに痛覚が切り離されてしまったのか。
 ただ一つわかっているのは、どうにも居心地の悪い羞恥だけ。
 こんなに明るい居間のこたつで、なんらいやらしさのないこの部屋の二酸化炭素が一気に濃度を増すような錯覚。そこで舌を差し出すあたしは、裸の姿をさらしているように顔が火照る。
 舌の上で溶けた氷が小さい雨粒のような雫を作った。それが零れ落ちる前に乱馬の指の腹で拭われ、視線を合わすことなくペロリと舐めとられる。

「つめて」
「も、もう大丈夫。ありがと」

 ドンと突き飛ばすようにしてこたつの掛け布団を胸の上まで引き上げたあたしの顔は、きっと真っ赤に染まっているに違いない。
 気恥ずかしさを誤魔化すため自分のマグカップを両手で包み、口を付けようとして躊躇った。そして今度こそ念入りに息を吹きかけ、ズズッとお行儀悪く音を立てながらココアを口に含む。

「おめー、ほんと鈍くせーよな」
「そんなことないわよ。ただ、ちょっと猫舌なだけだもの」
「そもそも猫舌って舌の使い方が原因らしいぜ」
「そうなの?」
「舌の先で触れるから熱く感じんだよ。奥のほうで飲み込めばそうならねーぞ」
「へえ」
「練習してみる?」

 あ、と思った時には顔の前に影が落ちていて。
 ふにゅっと柔らかな弾力を感じ、そっと上唇を割り開かれる。
 そろそろと、最初は遠慮がちに侵入してくる生温かい感触。それに委ねるように自分の舌を重ねれば、あたしの咥内を味わうように甘酸っぱい熱が奥のほうを弄ってくる。

「……ん…っ、」

 鼻から漏れる甘えるような声は猫みたいで。それを合図に首の後ろに回された手の存在をぼんやりと感じながら、二人の舌はまるで溶け合うガムのようだと思った。

「……ダメ、ここ……居間、だから……」

 スマートに鼻で呼吸をする方法なんて知らない。
 まるで説得力の無い拒否を示し、不器用なあたしは不器用なままに乱馬の肩を押して「はあ……」と離した口から酸素を吸い込む。
 どちらのものかわからない唾液で光る乱馬の唇が、蛍光灯の灯りに反射してやけに艶めかしかった。そこをさっきまであたしの中にいた舌でなぞり、指の先でぐいっと拭う。

「……わかった?」
「え?」
「猫舌。直せそうか?」
「そんなの」
「つってもおめー、学習能力なさそうだしな」
「はあ?」
「やっぱこーゆーのは特訓あるのみっつーか」
「残念でした。あたしはこれからお風呂に入ってもう寝るの」

 そうよ。だからこれでお終い、なんて。
 こうでも宣言しないと、本当は止められなくなる自分がいる…………こともわかっている。その隣では、茶化すフリして既に半分以上本気になった乱馬がありありと欲情の色を浮かべていることも。
 さっきまでの甘さを断ち切るよう、勢いをつけてこたつから立ち上がったあたしの唇はまだ湿り気を残していた。

「あかね」
「いーからあんたも宿題やっちゃいなさいよ」
「おい」
「言ったでしょ? あたし、これからお風呂に入るんだから」
「かわいくねーな」
「あっそ。かわいくなくて結構よ」
「あー、かわいくねえっ!」

 あのねえ。お風呂に入るなんて当たり前のことにまで文句をつけられたらやってられない。やってられないのだけど。

「ゆっくり浸かってくるから」
「へーへー」
「…………あたしが上がるまでに宿題済ませときなさいよ」
「へ?」
「……」
「お、おい。それって、あの、」
「なによ」
「その、も、もしかして、おめーが風呂から上がった後、その……」
「……」
「へ、部屋に行っても……いい、とか?」

 あたしの見間違いじゃなければ、尖った乱馬の喉仏が大きく上下したように見えた。
 それはまるで、大好きなお菓子を前に必死で“待て”するワンコのようで。

「…………ちゃんと真面目に宿題するならね」
「す、するするっ!」
「あたしのノートを写すだけなんてダメなんだからね」
「お、その手があったか」
「ばかっ」


 そわそわ尻尾ならぬおさげを揺らす犬に、ちろりと舌を出す真っ赤な猫。
 寒い寒いこんな冬の夜は互いの温もりを分け合うように。
 二人くっついて過ごすのも、悪くない。




< END >




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comment (18) @ 高校生編 短編(日常)

   
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comment

癒されました(*´ω`*) : kimmy @-
つい先程朝用に炊飯器セットしようとして、お米を派手にぶちまけてしまい、どんよりしながらちまちま拾ってため息ついてこちらに逃げ込むと、何と新しいお話発見!
kimmyワンコも尻尾パタパタ拝読させていただきました(^ω^U)ノ""
荒んだ気持ちが癒されました♪

確かに乱馬くんは冬でも冷たい飲み物とかアイスっぽいですよね。
お風呂あがりではだけたパジャマから引き締まったカラダがチラチラする感じが堪らんです(^q^)
そしてチロリと出した舌先に手で氷を…なんて官能的なんでしょう…!
読んでてドキドキしちゃいました(//∇//)

そんな溶け合うキスしちゃったら、それだけで終わりって訳にイキませんよねぇ(*´艸`*)

一度は引き離しながらもさりげなく部屋に誘っちゃうあかねちゃんの理性と欲情が行ったり来たりしてる感じが愛しかったです。
乱馬くんは欲情が99.9%でしょうけどねwww
2018/02/06 Tue 00:44:57 URL
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2018/02/06 Tue 06:36:03
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2018/02/06 Tue 10:51:15
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2018/02/06 Tue 22:33:21
Re: 癒されました(*´ω`*) : koh @-
kimmyさん

お米ざばぁ……おおぅ💦💦
お米だけに掃除機で吸い込む気にもなれず、黙々と拾っちゃうやつですねそれ。
このお話は確か、1時間くらいでどのくらいのものが書けるか試してみようって2~3週間前の週末に挑戦した気がします笑。
家族のテレビの音がうるさかった……(^^;。
確か山崎賢人さん(?)がいっぱいキスしてました。なのでついキス話に笑。
きっとお風呂ではあかねちゃんも念入りにお肌のケアをしていると思います////
2018/02/06 Tue 22:54:49 URL
Re: No title : koh @-
ト~コメント主様

わーい、ありがとうございます✨✨
あやうくお蔵入りかと思われましたが、えいっと投稿してみて良かったです////
きっと乱馬くんは自分兼両親の寝る部屋にそっと入って例のブツを手に取り、そわそわとあかねちゃんの帰りを待っていることと思います♡
そこでなびきの邪魔が入るところまでは、流石のドSな私にも書けませんでした笑。
今回こそは甘くイチャイチャしてくれていると思います^^。
2018/02/06 Tue 22:57:17 URL
Re: ありがとうございました!! : koh @-
m~コメント主様

そうなんです。舌を見せるってすごく恥ずかしくって、昔からなんだかイケないことだと思っていました。
きっとあかねちゃんは怒って以外のやり取りでそろりと舌を見せるのは乱馬くんだけなんじゃないかな、と。
今回、めずらしく家族のストップが掛からなかったですねぇ笑。
すでに家族にもバレバレで、今更もう誰も気に留めていないような気がします(^^;。
これ、実はえいりさんのイラストにお話を押し付ける前に書いたもので、なんとなく恥ずかしくて出せなかったのです////
投稿タイミングをオロオロ迷っていたのですが、お蔵入りしなくて良かった……♡
めずらしく、たまには大人ちっくな高校生乱馬くんでした^^。
2018/02/06 Tue 23:02:27 URL
Re: No title : koh @-
り~コメント主様

うふふ♡ありがとうございます。
ちょっと珍しくスマートな高校生乱馬くん。
前作とのギャップは気にしない主義です笑。
こうなると今度は大学生や、さらなる大人な二人も書きたくなったり、妄想は尽きないものですねぇ////
2018/02/06 Tue 23:04:22 URL
ほっこり… : なかまつ @j9po/lu.
kohさんこんにちは!
久しぶりに感じられる高校生編、寒い冬にはぴったりの暖かいお話でした *´-`
kohさんの書かれる乱馬くんとあかねちゃんならいつの時代の話も大好きなんですが、やはり高校生編は乱馬くんのヘタレ具合が愛おしかったり、あかねちゃんの意地っ張り具合が可愛らしかったり、初々しさの残るところが微笑ましいです!
じれったすぎる、でも高校生らしい子供の素直さを持つ二人がかわいい高校生編。実はそんな二人も大好物なので、次にいつ高校生編がくるかなーと楽しみにしながら待ってます♪
次回作がいつの時代の二人なのか、それを想像して待つことも楽しみの一つです^ ^
2018/02/07 Wed 13:37:48 URL
: えいり @SFun6dH6
甘々でほっこりする可愛さと艶っぽさのバランスがたまらないです…///
最初は乱馬がリードしていてあかねは恥ずかしがっているのに、最後はやっぱり素直な気持ちを見せたあかねが乱馬のハートをかっさらっていきますね!>///<
冬の寒さも吹き飛ぶようなホットなお話をごちそうさまでした…v
2018/02/08 Thu 19:44:51 URL
Re: ほっこり… : koh @-
なかまつさん

ありがとうございます。
私も高校生の最もヘタレな乱馬くんが大好きなのですが、このお話では少しだけイケ乱傾向が強かったので「こ、これは……っ(照)」と投稿するタイミングを迷っていたのでした(^^;。
でも暖かいお話と言っていただけて嬉しいです♡
原作が完璧なだけに高校生編って難しくて、でもたまにふと妄想が降りてくると今度は頭の中が高校生ばかりになってしまう私。
次は何が出るのか自分でも全く分からないのですが、ガチャガチャ感覚で楽しみにしていただけたら嬉しいです(´艸`*)♡♡
2018/02/12 Mon 06:44:53 URL
Re: タイトルなし : koh @-
えいりさん

お返事が遅くなってしまってすみません(>_<)
実はこれ、がんばれ乱馬くん!を書く前に「1時間くらいでどこまで纏められるかなぁ」と書いてあったものでして。
なのにがんばれ~との落差があまりにも激しく、なんだか恥ずかしくなって投稿するタイミングを見失っていたのでした笑。
なんだかんだ言って乱馬さえ勇気を出せばあかねちゃんはいつでも受け止めてくれそうですよね。
まさに港のような女の子……っ!(古い)
ほのぼのも書きたいし、しっかりガツガツも書きたい、忙しい頭の中です^^。
2018/02/12 Mon 06:48:27 URL
はうぅぅ・・・っ!! : 憂すけ @-
文庫バージョンでの拝読も、楽しかったですー!
冬、炬燵、熱い飲み物と、氷入りのグラス。
対称的なようでいて、実はどれも有りですよね~♡
温かい場所での冷たいもの。
そして、家族で集う明るい居間での・・・・ねぇ!?////(´艸`*)////
ワンコとニャンコな2人に目じりが下がりっぱな自分です♡
あぁ~!!乱あ補給出来たよぉぉん!!有り難うですー!!( ;∀;)
2018/02/14 Wed 16:49:16 URL
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このコメントは管理人のみ閲覧できます
2018/02/15 Thu 11:13:48
Re: はうぅぅ・・・っ!! : koh @-
憂すけさん

こんばんは。
すっかりお返事が遅くなってしまってすみません!
(でもコメント、本当に嬉しいです♡)

なんだか、妙にイケてる攻め乱馬くんになってしまってkohおばちゃんはちょっぴり恥ずかしいのですが、たまにはこんな美味しい思いも良いかな、と思って^^。
冬といったらこたつとココアですよね。
ああ、襖の向こうからこっそり覗きたい……。
2018/02/27 Tue 21:30:06 URL
Re: 色っぽいですねえ : koh @-
青~コメント主様

こんばんは。
すっかりお返事が遅くなってしまってすみません!
(コメント、いつもありがとうございます♡)

文庫形式になるだけで色気もバカバカしさも二割増しになりますよね。
サイズを圧縮するため やや文字が潰れてしまうのが難点ですが、本来縦書き好きの私にもたまらない仕様です^^。
後で読み返すと「乱馬―っ!いつになく積極的じゃないかこらこらっ」と照れくさくなってしまうのですが、
たまにはこんな年頃の好奇心というのもアリで♡
はあ……また沸々と創作熱が湧いてきました(*^^*)
2018/02/27 Tue 21:37:51 URL
管理人のみ閲覧できます : @
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2018/03/25 Sun 23:53:58
Re: タイトルなし : koh @-
y~コメント主様

高校生って子どもかと思ったら、ちょっと背伸びして大人っぽく振る舞ってみたくもなったり。
そして実際、高校生って見た目は殆ど大人ですからね💦💦(この前、卒業式で子ども達を見てきて本気で驚いた人)。そんな二人が居間で少しだけ秘密ごとめいたことをしてしまうのも、火照りと氷のせい……なんて。
ただ、このお話の前に散々茶化したお話を書いていたので投稿するタイミングを見失ってしまって。
恥ずかしくてひっそり投稿したものですが、こうして前のお話を読んでコメントいただける載ってとっても嬉しいです////
ありがとうございました♡
2018/03/26 Mon 11:42:42 URL

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