たったひとつのバレンタイン 

2018/02/14
高校二年生になっても相変わらずの二人。
拍手話に続きます。
(一部 原作をトレースしています)



 テレビから流れてくる音楽に合わせ、まるで甘い香りまで一緒に漂ってくるようなこの季節。
 そう。世の男性も女性もそわそわと落ち着かない、今日は二月十四日バレンタインデーだ。
 数週間前から執拗に繰り返されるそれ関連のCMを観ながら、コタツでなびきが蜜柑を頬張る。

「まったく、毎年毎年よくやるわよね」
「おねえちゃんは誰かにチョコをあげる予定ないの?」
「わたし? わたしがタダでチョコを配ると思う?」
「……そうよね」

 愚問だった。そもそも愛の告白と化したイベントで“タダ”だの“配る”だのという単語が出てくること自体、不釣り合いな気がしてならない。が、なびきにはなびきの言い分があるようで。
「いい?」と念を押すようにあかねの顔へ鋭い視線を向ける。

「言っちゃなんだけど、バレンタインなんて元はウァレンティヌス司祭が処刑された殉職記念日だからね。いくら取り繕ったって処刑日をお祝いするなんてわたしにゃ出来ないわ」
「ということは義理チョコや友チョコもなし?」
「そうねえ。五倍返しの義理チョコだったら考えなくもないけど面倒なのよ。たかが数百円程度の見返りに労を成すことを考えたら割に合わないわね」

 おそらくなびきの脳内にはいつ何時とも精巧な電卓が弾かれているのだろう。損得を瞬時に判断し、周囲に流されることなく自分を貫くさまは ある意味あっぱれと言えるかもしれない。

「大体、本命ならまだしも義理でチョコ貰って喜んでるのなんかモテない男だけよ。あー、早くこの忌まわしい文化がなくなって欲しいものだわ」

 どちらにせよ自分は渡す気もないくせに勝手なことを言うと、やれやれと風呂に向かう。その後ろ姿を見送りながら、あかねは小さな溜め息を落とした。
 確かになびきの言うことも一理あるのだろう。なんとはなしにみんなが一日中そわそわし、結果として一つのチョコも貰えずガッカリする者までいるなら こんな残酷なイベントはない方がいいのかもしれない。
 いや、それどころか世の女性にとってはどこまでお付き合いでチョコを用意するか、毎年頭の痛い悩みと言えるだろう。かくいうあかねも周囲からの無言の圧に疲れ果て、義理チョコの類は一切用意しなくなった。

 …………だけど。


「義理チョコの文化があるから渡せるチョコもあるのよね」

 ポツリと呟くその乙女心を、きっと例の許婚はわかっていない。
 

 

【 たった一つのバレンタイン 】



 昨年は一緒に歩いた帰り道。思えばあれは奇跡だったのかもしれない。
 それもそのはず。今年こそはと鼻息荒く追いかける三人娘から逃れるよう、ホームルームの途中から既に予兆はあった。ちらりとあかねに視線をよこし、
「あ、あのよー、今日の帰りだけど」
 そこまで乱馬が言いかけた時、めこりと教室の壁が大きく歪む。
「乱馬っ」
「乱ちゃん!」
「乱馬様っ」
「だ──っ! お、おめーら、どっから湧いて出やがった!?」
 後は言わずもがな。窓から飛び出していった四人の姿を追いかけるでもなく、あかねは早々に家路につき、いつも通りに夕飯を食べて宿題も終えた。無論、それまでに乱馬が帰宅し、姿を現すことはなかった。


 そんなあかねの部屋を客人が訪れたのは、既に時刻が夜の九時を回ろうという頃だったか。
 めずらしくノックの音がする。といってもそれは廊下に面した部屋のドアではなく机の前の窓からで、こんな時間に。いや、こんな時間じゃなくてもそんなところから訪問して来る者など一人しか考えられない。
 レースと厚手のカーテンを同時に捲り、窓の鍵に手を掛ける。そこに居たのはドッと疲れ果て、心なしか生傷が増えたように見える乱馬の姿だった。
「あ~、今年も悲惨な目に遭った……」
 それまで履いていた靴を両手に持つと、当然のようにあかねの部屋から侵入する乱馬。取りあえず言ってやりたいことは山ほどあるが、冷たい外の空気にぶるりと肩を震わせあかねが窓を閉める。

「こんな時間まであの三人から逃げ回ってたわけ?」
「だってあいつらしつけーんだもん。途中でまいて隠れてたらそのまま寝ちまってよ」

 おかげで無事帰ってこられたと首をゴキゴキ鳴らしてみせる。
 しつこいと思うんだったらいい加減はっきりすればいいじゃない。そう思うのだが、言ったところで「だってあいつら人の話を聞こうとしねーじゃねえか」と返ってくるのは明らかで、今日くらいは不毛なやり取りを避けたいあかねは「あっそ」と短く答える。

「ところで あんた夕飯は?」
「途中で肉まん買って食った」
「それだけ?」

 もしかしたらまだかすみやのどかが残ったおかずをとって置いてくれているかもしれない。
 とはいえ、元来よく食べる天道・早乙女家のこと。今日の夕飯は余ってたっけ? と考えているあかねに対し、乱馬は別のほうに意識が向いているようだ。

「そ、その、不思議と腹はそんなに減ってねーんだけど」
「あらそう。ならさっさとお風呂に入っちゃった方がいいわよ」

 なんせ この寒空の下、ずっと外にいたのだ。早く体を温めなければおそらく芯まで冷えているに違いないだろう。しかし、乱馬はなかなかあかねの部屋を出て行こうとはしない。

「あ、あのさ、えっと、」
「あ、もしかして宿題? 言っとくけどちゃんと自分でやんなさいよ」
「そ、そーじゃなくって、だから……っ」

 指をもじもじさせ、「その……」と声を小さくする乱馬。これがさっきまで女の子達に追いかけられていた自称かっこいい男だと誰が思うのか。
 ぎし……と音が聞こえてきそうな沈黙が二人の間を通り抜け、仕方ないとばかりにあかねが通学鞄の中から何かを取り出す。

「これ」
「え?」

 ぴいーんと乱馬の手に投げられたもの。
 それは昨年同様、小さな小さな四角いチョコの箱だった。

「今年も手作りじゃないから安心して」
「え、あ、あの……」
「なによ」
「えと……その……」
「だからなにってば」

 まるで宝物のように両手で箱を包み込みながら、仔犬のような仕草であかねの顔を見つめてくる。
 それを見て、正直ずるいなぁと思わずにはいられない。

「あの……こ、これって他のヤツにもあげた?」
「……どうして?」
「どーしてって……」
「別にあたしのことはいいじゃない。それより本当にお風呂入っちゃいなさいよ」

 最後は乱馬の背をぐいっと押して部屋から追い出す。そして廊下から物音がしなくなったのを確認すると、あかねはゆっくりと自分の机の前に立ち……そして一番上の引出しに手を掛けた。
 からりとレールの上を滑って引き出された平べったい木目の引出し。その一番奥深く隠すようにしまってあったのは、先ほど乱馬に渡した小箱と同じ大きさの、けれど既製品ではない紙のケースだった。
 昨年同様、あかねの手作りは要らないと口煩く言われていたチョコレート。そのかわいくない台詞も頭に来るが、おそらく他の三人娘はとびっきり美味しいお手製のチョコを用意してくるのも容易に想像出来て。
 そんな中、自分だけがいびつなチョコレートを乱渡す気にはどうしてもなれなかった。
 そして自分の想いを明かすような真似も。

「はぁ…………あたしのバカ」

 思わず独り言が零れる。
 机の上のスタンドにかざすようにそれを持ち上げてみれば、用意してあったもうひとつの小箱が寂し気に笑ったような気がした。
 お料理の腕前は急に上達しなくても、乱馬の喜ぶ顔が見たくて。
 去年の嬉しそうな顔がもう一度見たくて用意した、小さな小さな小箱。そこにはあかねの想いがぎゅっと凝縮されている。
 けれど。
(……乱馬の顔、チョコレートついてた)
 おそらく誰かに無理矢理口に突っ込まれたのだろう。いや、それとも逃げている間に小腹が空いて食べたのだろうか。
 ツキンとあかねの胸が痛む。
 いいじゃない。
 ちゃんと今日中に渡すことは出来たし、なんといっても乱馬の望む既製品だ。
 それだけで充分…………の、はずだったのに。
 いつでも真っ直ぐ自分の気持ちを乱馬にぶつける三人娘。今日だけは、それが少し羨ましくもある。
(……やめやめっ。考えるのは終わりにしよっと)
 無理やりにでも気持ちを切り替えたその時だった。

 「あかね」

 声と同時にガチャリとドアが開き、そこに居るはずのない乱馬が立っている。
 瞬間、指を挟む勢いであかねが机の引き出しを閉じた。

「あ、ああああんた、いつもノックくらいしなさいって言ってるでしょ!?」
「わりーわりー。ところで今、なに隠したんだ?」
「べ、別に何も隠してなんか……っ」
「嘘つけ。明らかに慌ててただろうが」

 こうなると途端に分が悪くなるのはあかねのほうで。
 なんでもないというあかねの主張など一切聞く耳持たない乱馬は、ズカズカとあかねの机近くに寄ってくる。そしてあかねの阻止を難なく退けると、おもむろに引出しに手を掛けた。

「なんだ? これ」
「あっ、ダメ……っ!」

 先ほど乱馬に渡したものと同じ大きさの、小さな小さな紙の箱。
 一見なにも変わらないように見えて、でも一目で違うと分かるのは…………。

「なんだ? これ。ぶっさいくな顔だな」
「失礼ねっ、あんたの顔じゃないっ!」
「えっ!? こ、これ、おれなのか!?」

 …………そう。
 そこに描かれていたのは、何度も何度もあかねが描き直した乱馬の似顔絵だった。
 あかねの手が届かない位置まで腕を高く上げ、嘘だろ? という眼差しでジロジロとイラストを眺める。あかねにしてみたら到底いたたまれず、「返して!」と手を伸ばすもののそれは叶わなかった。

「これ、どーしたの?」
「べ、別になんでもいいでしょっ。ちょっと試しに描いてみただけよ!」
「ほー」
「……なによ、その言い方」
「じゃあ、そこにある大量のチョコは?」

 乱馬が机の引き出しの奥を指差す。そこには数枚の板チョコが封を開けられないまま仕舞ってあった。

「こ、これは……っ、その、勉強に疲れたら食べようと思って、」
「こんな大量にか?」
「そ、そうよっ!」

 ああ、もう人が悪い。
 急にニヤニヤと笑い出し、そーかそーかと言って頷いている様を見ていると、どうしてもこれが乱馬のために用意してあっただなんて言えなくて。

「まーたおめーは無駄な努力をしようとしてたのか」
「はあ?」
「だってそーだろ。それってその、お、お、お、おれへの手作りっつーか」
「残念でした! あんたのためじゃないもん」
「あ、そーゆーかわいくねーこと言うのか。素直じゃねーなぁ」
「その揺るぎない自信はどっからくんのよっ」

 そうだ。
 大量にチョコを買っていたのだって、乱馬の似顔絵を描いた箱を用意してあったのだって、たまたまの偶然でそれに深い意味はない。
 …………なんて信じてもらえるはずもなく。

「んじゃ あかね、その大量のチョコどーする気だ?」
「決まってるでしょ、食べるのよ」
「一人でか?」
「そうよ」
「太るぞ」
「ほっといて」
「っつーか、ただでさえずん胴なのにそれ以上太ったら」
「だからほっといてって言ってるのっ!」

 バスンと通学鞄が乱馬の顔面に命中し、床に落ちる。そこで大袈裟に顔を押さえながら「なにすんだよっ!」と乱馬が声を荒げるけれど、それはあかねの台詞だ。

「あんたねぇ、いきなり人の部屋に入ってきたと思ったらなに好き勝手言ってんのよっ」
「好き勝手って、おれは見たままの疑問をぶつけただけだろーが」
「も、もういいでしょ!? とにかく、あんたは三人娘のチョコレートでお腹いっぱいだろうから関係ないじゃないっ」
「あの三人のチョコなんて食ってねーよ」

 この台詞に驚いたのはあかねのほうである。
 まじまじと乱馬の顔を見つめ、そしてふっと息を吐いた。

「……嘘つき」
「なにが」
「さっき、あんたの口の周りにチョコがついてたもん。食べてないなんて嘘ばっかり」
「嘘じゃねえって。あれはただ、無理やり口に突っ込まれただけで食ったわけじゃねーし」
「別にあんたが他の女の子のチョコを食べようとあたしには関係ないけど」
「だ──っ! いいから話を聞けってのっ。大体なぁ、あいつらの作ったチョコなんか食ったら何が起こるかわかんねーだろうが」
「それ、どういう意味?」
「だからそのまんまの意味だよ」

 要はこういうことらしい。
 シャンプーは怪しい惚れ薬を仕込んでいるかもしれないし、小太刀は例の痺れ薬が入っているとほぼ断言できる。右京は食べ物で遊ぶような真似はしなさそうだが、一度食べてしまえばそれを理由により積極的に出てくるのは火を見るより明らかなわけで。

「だからおれはちゃんと逃げ切ってやったぞ!」

 どーだと言わんばかりに胸を張る。
 が、それを素直に嬉しいと思えるほど、あかねも単純ではなかった。

「そんな威張っちゃってバカみたい」
「あん?」
「じゃあなに? シャンプーのチョコも小太刀のチョコも怪しいものが入ってなかったら受け取るわけでしょ。それに右京のチョコだって……」

 アプローチの仕方はどうあれ、せっかく気持ちを込めて用意したチョコだ。
 それを素直に食べてもらえない悲しさはあかねにだってわかる気がする。
 それに。
 本当は乱馬が自分の気持ちをハッキリ示せばいいだけなのだが、それを言えるほどあかねと乱馬の関係はそういったものではない。

「と、とにかくっ。あんたにもチョコはあげたんだし、今度こそ本当に自分の部屋に帰っ――」
「別にあいつらのチョコを食わなかった理由はそれだけじゃねーよ」

 あかねの言葉を乱馬が遮る。
 それはさっきまでと違って、明確に意思を持った言葉だった。

「その……受け取るだけならさっさと受け取って食っちまったほうが楽だったかもしんねーけど」
「……」
「けど……そ、それをすると、気にしそうな奴がいる、から……」
「誰よ、その気にしそうな奴って」
「お、おめーは相変わらずニブいなっ! そんなの あかね以外にいねーだろうがっ」
「あたし?」
「おう」
「あたしが気にしそうだから、あの三人のチョコを受け取らなかったの?」
「う、うるせーなっ、わりーかよっ!?」

 なにそれ。
 すっごい勝手で、すっごい自惚れ。
 そんなの、あんたの勝手な思い込みじゃない。
 そう言ってやりたいのに。
 そんな真っ赤な顔をして口を尖らせるから。
 そんな汗を浮かべながらムキになるから、もう何も言えなくなってしまう。

「…………じゃあ、あたしのは?」
「え?」
「もし。もしもあたしが手作りしたら、その……」
「……」
「ら、乱馬は食べてくれるの?」
「…………しょーがねえからな」
「なにそれ」
「だってほんとにしょうがねーだろうが。まさかおじさんや親父達の腹を壊すわけにもいかねーし、しょうがねーからおれが毒味をして」
「あ、そういうこと言うんだったらやっぱりあげない」
「な……っ」
「だってあたしのチョコってお腹壊しちゃう毒なんでしょ? そう思ってるなら無理に食べてもらわなくても」
「ま、待て待てっ! べ、別におれは食べたくないって言ってるわけじゃあ……!」
「じゃあ、食べたいの?」
「……」
「あたしの手作りチョコ。作ったら、食べてくれる?」
「…………しょうがねーからな」
「なによ、もう」
「い、言っとくけど大量には要らねーからな!? あと味見しろ、味見! それからお酢とかワインとか余計なもん入れずにただ溶かして固めろっ」
「でもそれじゃあ、つまらないし」
「つまらないとか面白いとかどーでもいいんだよっ。まずは食えるもん作ってから言えっ!」

 ああ言えばこう言う。
 そのやり取りはとてもすぐに終わりそうにはないけれど。
 それでもいつしか、二人の顔には照れくさそうな笑顔が浮かんでいて。

「にしてもおめー、料理だけじゃなくって絵も……だな」
「なんか言った?」
「っつーか これのどこがおれなんだよ」
「どこって、どっからどう見てもあんたそのものじゃない」
「はぁ!?」
「ほら。ここのおさげとか」
「そ、それ、おさげだったのかよ。おりゃーてっきり爆弾が頭に刺さってんのかと」
「でもって これはあんたのパジャマの“なると”でしょ」
「な、なるとっ!? この凶暴なイガ……っ、あ、いや、その」

 残念ながら、これは本気でイラストの意味がわかっていないようだ。
 おかしい。あんなに苦労して書いたのに……。

「もうっ! そんなにバカにするなら返してっ」
「おっと。これはこれで悲しい時に見てたら笑いが込み上げてきそうだからもらっといてやるよ」
「なにそれ。すっごい偉そう!」
「バーカ。偉そうじゃなくて偉いんだよ」
「勝手に言ってなさいよ、バカ」

 なによ。そのわりには結構嬉しそうな顔しちゃってるくせに。
 決してあかねに返す気はないというように自分専用の小箱を見てはニヤける乱馬の顔を見ていると、これ以上強く言えなくなってしまうのは あかねにも乱馬の本心が伝わっているからに他ならない。
 
「……言っとくけど、他の人にはあげてないわよ」
「え?」
「チョコ」
「あ……えと、」
「だ、だけどその、だからってさっきのが本命とかそういうわけじゃなくって、ただ、あんまり何もないのも可哀想かなって、だからその」
「その?」
「え……っと…………」
「……あかね。ペンと紙かして」
「紙? なんでもいいの?」
「おう」

 ふーむと辺りを見回し、勉強机の上から一枚のルーズリーフとシャープペンシルを乱馬に手渡す。
 するとそれを半分に折って切り離し、なにかを書き始めた。

「おれがいいって言うまでこっち見んなよ」
「わかった」

 一体なにを真剣に書いているのか。
 時折手元を隠すようにしては、あかねが覗いていないかを確認して一気に書き上げる。
 そして「よしっ」と一息つくと、おもむろにその一枚をあかねに渡した。

「いいか? これがおれの顔だぞ」
「はあ?」

 そこには数倍美化された乱馬がご丁寧に薔薇と光を背負い、瞳を輝かせている似顔絵が描いてあった。
 きっと本人は大真面目に書いたのだろう。が、そのあまりの図々しさにあかねは言葉を失う。

「あんたって人は……」
「どうだ? あまりに似てるから文句のつけようがねーだろ」
「その逆よ。自分のことをこんな風に見えてるなら眼科に行くことをお勧めするわ」
「なんだと!?」

 乱馬の顔が本人にこう映っているとしたら あかねの顔はどれほど魅力的に映っているか、おそらくあかねには想像もつかないのだろう。
 呆れたと笑うあかねに、乱馬も嬉しそうな笑顔を返す。

「っつーわけで その似顔絵はおめーにやるからこれはおれが貰っといてやるよ」

 そう言って大事そうにポケットにしまうのは もうひとつの手描きの小箱で。
 今度こそあかねも「うん」と笑うと、お互いもじ……っと下を向く。

「ん、んじゃ、その……お、おれ、風呂入ってこようかな」
「そ、そうね」

 手作りのチョコは渡せなかったけれど、世界でただ一つの気持ちを込めたチョコの箱を渡すことは出来た。その思いがあかねの笑顔をより一層眩しいものにする。
 そして部屋の入り口まで見送ったところで、乱馬が先程のルーズリーフの半分を更に半分に折って差し出した。

「こ、これっ、やるよ」
「え?」
「おれが一階に行ったら開けよ。いいな?」

 言うや否や、バタバタと忙しなく階段を降りていく。
 その音が遠くなるのを確認して、そっと開いたメモの中には。
 
 
 去年とはほんの少しだけ二人の関係が変わる。
 そんな予感を抱かせる、不器用な言葉が並んでいた。

 





coco1.jpg


 

 < END & 拍手に続きます >
 
 
 
 
 
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comment (10) @ 高校生編 イベント編

   
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2018/02/15 Thu 00:30:37
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2018/02/15 Thu 11:25:37
しゃーわせだなぁ・・・! : 憂すけ @-
ぼかー、君と一緒にこうしているだけで幸せだなぁ・・・!そんな言葉が浮かびます・・・!(´艸`*)
意地っ張りな2人の何という可愛らしさか・・・!!ちゃんと言い出せないのは好きだから。自分だけを見て欲しいと言いたいのに言い出せないのは想いが真剣すぎるから。
ンもう、大好きだ!!可愛すぎますこの2人っ!!拍手も含めて幸せを有難う!!ご馳走様っした!!( ;∀;)♡
2018/02/15 Thu 12:47:19 URL
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2018/02/16 Fri 07:56:16
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2018/02/19 Mon 23:53:21
Re: かわいいなぁ!もうっ! : koh @-
k~コメント主様

こんばんは。
すっかりお返事が遅くなってしまってすみません!
(コメント、いつもありがとうございます♡)

書きました。書いてしまいました。
あれほどイベントごとには惑わされないぞ!と誓うのに、気付いたらつい手が……。
もうすっかり乱あ脳です(^^;。
きっとチョコレートのように甘く素敵なお話は他で見られると思ったので、今年のSBは微糖で。
それでも楽しんでいただけてとても嬉しいです////。
2018/02/27 Tue 21:33:33 URL
Re: ありがとうございました!! : koh @-
m~コメント主様

こんばんは。
すっかりお返事が遅くなってしまってすみません!
(コメント、いつもありがとうございます♡)

今年は例の小箱を作ったこともあり、なんとなくあかねちゃんの心情になってしまって。
もしも自分があかねちゃんの立場だったら……。そんな大それたことを考えながら、素直になりきれないまま、それでも貢の時より少しだけ勇気をもって歩み寄る二人を書いていて楽しかったです^^。
それにしてもあかねちゃんと乱馬、それぞれのイラスト笑。
こうして2週間ぶりに創作を振り返ると「……私、暇人??」と笑ってしまいました(´▽`;)。
2018/02/27 Tue 21:40:48 URL
Re: しゃーわせだなぁ・・・! : koh @-
憂すけさん

ぐぐっと進んだ関係も好きなんですけどね。
たまにこうして何もなくてもお互いが思い合っているような、そんなお話を書きたくなる時がありまして。
そういうお話を書いた時ってなぜか自分の方がホコホコ幸せな気持ちになっているから乱あって本当にすごいです////。
例の小箱工作も楽しくて楽しくて……。
私、よく勘違いされるのですが根は面倒くさがりなんですよ。なのに乱あのこととなると俄然マメになる。
私を突き動かしているのは間違いなく乱あです♡♡
2018/02/27 Tue 21:45:45 URL
Re: No title : koh @-
ト~コメント主様

こんばんは。
すっかりお返事が遅くなってしまってすみません!
(コメント、いつもありがとうございます♡)

なかなか関係の進まない二人ですが、原作よりも少しだけ素直になった二人。
久々にそんなお話を書いてとっても楽しかったです。
そして例の工作……。後から振り返ると我ながら笑ってしまって、やっぱりこういうのは勢いでやらないと後からは出来ないものだな、と独り納得しています笑。
それだけに写真があると嬉しいと言っていただけて、私もすごく嬉しいです♡♡
そしてVDのR……。
あれに関しては「これだっ!」と思ったのと、それを別シチュに回すのはあまりにももったいないので、たとえ物語の前後が入れ替わったとしても来年に投稿します笑。
2018/02/27 Tue 22:03:14 URL
Re: 温まりました・・・ : koh @-
り~コメント主様

こんばんは。
せっかく初めましてのコメントをくださったにもかかわらず、お返事が遅くなってしまって本当に申し訳ありません(>_<)。
(拍手のほうのコメントもありがとうございます。いつも嬉しく拝見しています♡)

そしてなんだかコメント主様の仰っている気持ちがわかるような……。
私自身、原作よりも進んだ関係の大学生編や社会人編をこれでもかってくらい書いているのですが、時にむしゃくしゃした時。
なんとなく心の拠り所がなくなった時。
そんな時は甘くなくてもいいから原作に近いような、そんな二人に会いたくなることがあって……。
形になるほんの手前ってドキドキ苦しいけれど、でもその分些細なことが幸せに感じるんですよね。
純粋に相手を想っているだけで幸せになれるような、損得抜きにした感情というか。
VDにしてはチョコのように“甘い”までいかないかな?
そんなことを思いつつ、今年の(その日の)私の気分はこんな感じだったので、コメント主様のお気持ちにガツンとはまってとっても嬉しく思います。
コメントありがとうございました✨✨
2018/02/27 Tue 22:46:21 URL

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