コットンのしたのエト・セトラ 

2018/06/30
過去の下書きフォルダからサルベージ第1弾。
かれこれ1年4カ月も眠っていました……。

 

コットンのしたのエト・セトラ

衣替え1




 六月といえば衣替えだ。
 長袖のシャツと半袖のシャツ、どちらでも登校を許可される二週間の衣替え週間。既にクラスの半分以上が上着のジャケットを脱ぎ、冬に比べて教室の中は白く目に眩しい光景が広がっている。
 昼休み──弁当の包みを広げて机を寄せ合う女子を眺めながら、しみじみと溜め息をこぼしたのは大介だった。

「うちの学校の制服ってつまらないよな」
 その視線は女子のグループに向けられたままだから、今ならこっそりおかずのから揚げを奪っても気付かないかもしれない。
 おれはかすみさんの作ってくれた弁当をかき込みながら、あまり興味はねえものの一応話を合わせてみる。いわば協調性ってやつだ。
「何がつまんねーんだよ?」
「……」
 あ、なんだよその反応。せっかく人が聞いてやったのに。
 その上ひろしまでもが「わかってたことじゃないか大介。乱馬に理解しろというのがそもそも間違いなんだ」なんて慰めてやがる。はっきり言って心外だ。
 おれは早くも弁当の半分以上を腹におさめると、「いいから言ってみろよ」と行儀悪く箸で指差す。

「だからー。うちの学校の制服っていわゆるワンピースだろ?」
「ああ、ジャンパースカートな」
「今時ジャンパースカートとは言わないんじゃないか?」
「そーか?」
「確かに。ジャンパースカートと言ったらやたら幼い子が着てるイメージだよな」
「おれ、ウエストがなくてズドンと真っ直ぐなイメージがある」
「ウエストがなくてずん胴なんつったらあかねにピッタリじゃねーか」
 わははと笑うおれに呆れた視線を向ける大介。
 聞こえよがしにクジラのような溜め息をつくのは隣にいるひろしだった。
「許してやれ、大介。乱馬にかかればなんでもすぐあかねの話題になってしまうのは仕方あるまい」
「待て。おれがいつあかねの話ばっかりしてるっつーんでぃ」
「現に今しとるじゃないか」
「違う。これはたまたま、ずん胴なんておめーらが言うからだろ」
「おれ達はずん胴だなんて一言も言っとらんぞ。なあ、あかね」
「あかね?」
 
 見れば俺の真後ろにニッコリ笑顔のあかね。
 ……を認識した瞬間、でーんと強烈なキックがお見舞いされる。
 
「いってーな! このずん胴女っ!」
「なによっ! あんたが悪いんでしょっ!?」
「なんでい、ずん胴をずん胴と言って何が悪……ぐえっ!」
 
 まったくなんて凶暴な女だ。少しは手加減しろっつーの。
 ジンジンと痛む尻を押さえながら再び席に着くが、もう慣れっこというように特にフォローもないまま大介が続ける。
「今だってそうだろ」
「へ? 今?」
「うちの学校の制服さ、無駄にスカートが長過ぎんだよな」
「そうそう。普通だったら今の蹴りで下着の一つや二つ見えててもおかしくないというのに、その美味しいとこ取りをしてるのは蹴られてる本人だけだもんなぁ」
「あれのどこが美味しいとこ取りだ」
「だってそうだろ? 蹴られる瞬間、思いっきりあかねの下着がお前には見えとるだろうが」
「だーっ! 勝手なこと言ってんじゃねーよっ。あかねのパンツなんて見えるわけ──」
 
 めしゃっ。
 
「……だ、だから……ほんとに見えてねーん……だってば…………」
 
 ひくひくと。
 地面にめり込んだおれの姿にさほど動揺するでもなく
「これは本当に見えてないらしいな」
「ああ、どうやら見える前に靴の裏が視界を覆っているらしい」
 などと尤もらしい解析をしているひろしと大介。
 おい、親友への心配はどこへ行った。
 
「まあしかし、考えてみたら乱馬も不憫な奴だよな」
「そうそう。どうせ蹴られるならせめてあかねの下着の一つや二つは見たかろう」
「けっ。あーんな色気のねえ女の青いパンツなんざ、見たところで何の足しにも……」
 ──っといけねえ。
 ゴゴゴゴ……と湧き上がる不穏な気配に、今度こそおれは自分の口を噤んだ。
 
「とにかくだ。うちの学校のスカートは長過ぎる」
「長いだけならまだ許せる。しかし、ワンピース型というのが更に許せん」
「おっ! ひろし、お前は分かってるな!」
 なるほど。
 ここでおれが「なんでワンピースじゃいけねーんだ?」なんて聞こうもんなら、またバカにされることは目に見えている。
 したがって、おれは黙って答えを待つ──が、それを見逃してくれるほどおれの親友どもは甘くなかった。
 
「ところで乱馬よ。なぜワンピースではダメか分かるか?」
「え、……とその、」
「そうだ。ずばり、ブラの線が透けて見えないからだ」
 
 いや、おれ何も答えてねーけど。
 
「夏の男子の楽しみといったら女子の制服姿にあるといっても過言ではない。半袖からちららと覗く日焼けしていない二の腕。さらに腕を上げると見える無防備な脇。髪だってアップにしてたりなんかして、その極め付けが背中から透けるブラの線なのだ!」
「そうそう。ちょっと色の付いたピンクとかな、水色とか」
「いやいや、意外と白がよく透けるってことを女子はあまり分かってないらしいぞ」
「しっとり汗ばんだスポブラも、あれはあれでちょっとそそるっつーか」
「おまえ、それはマニアック過ぎるだろ!?」
「だが悪くない」
 
 いつの間にかクラスの野郎共がおれ達の周りに集まっては、口々に自身の思いをぶつけ合う。
 おーい、お前ら授業中でもそんな真面目な顔しねーじゃねえか。中には学級委員までが眼鏡の奥を光らせ、持論を唱える始末。すげえ。どんな時でもすけべ話は別格なのか。
 
「よくドラマとかであるじゃん。好きな女子の席の後ろになって授業中、背中を見つめるってやつ」
「机で前のめりになると余計に制服のシャツが張り付くんだよな」
「おれ、中学ん時それで興奮した」
「正直に言えっ! 興奮してどうしたんだよ」
 
 こうなると、もはや制服の議論なんかそっちのけだ。
 あのシチュエーションが興奮するだの、このシチュエーションに萌えるだの、決して女子には聞かせらんねーような話に花が咲くのが十七歳の健全なる高校生で。
 おれはそれを冷めた表情で見守るものの、「何カッコつけてんだ!」の総ツッコみに半ば交通事故のように巻き込まれていく。
 
「あーあ、うちの学校の制服がセーラー服だったらなぁ」
「おれはミニスカートならブレザーもありだな」
「わかる! ちなみにスカートはプリーツ派だろ?」
「そうそう。んで、チェック柄とかだと更にくる」
「おまえ、AVの見過ぎだっつーの」
「でもよくね?」
「それは否定しない」
「どっちにしろ首元のリボンは絶対だな」
 
 言うだけはタダと、みな思い思いの願望を口にする。
 そんな中、おれはただ一人溜め息を落とすのだった。
 
 *
 
「おい、まだ空かねーのかよ。ったくどんくせ―な」
 ノックもせずドアノブを回し、見慣れた背中に悪態をつく。
 朝の光が差し込む洗面所はぼんやりと青白い光に包まれ、ちゃぷちゃぷと水音が響いていて。
 キュッと水栓を閉め、濡れた顔がこちらを振り向く。

「ちょっと待って……ってなによ、偉そうに。言っときますけどあたしのほうが先に起きて使ってるんですからね」
「バーカ。おれはおめーより先に起きてもう朝のロードワークに行ってきたっつーの」
「ずるいっ。それなら声掛けてくれればいいのに」
「やなこった。おめーと行ったら修行になんねーもん」
「言ったわねえ?」
「いーから早くどけよ。おれも学校行く前に風呂入りてえ」
「もう……っ。あと少しだから待ってて」
 
 そう言って顎から伝う雫をタオルで押さえるのは、パイル地のヘアバンドで額を丸出しにしたあかねだ。
 茹で卵みたいにつるつるの白い肌。
 しゃこしゃこと歯磨きを始める腕の動きに合わせ、フリルが特徴的な黄色いパジャマの下では柔らかそうな膨らみが小刻みに揺れている。
 ふわふわ、ぶるぶる。
 そこにつんと主張する小さな突起。
 そう。
 ……それはすなわち、ノーブラなわけで。
 
「はい、お待たせ」
 くるりと踵を返し、狭い脱衣所を出ていく。
 その後ろ姿を見送り、もぞりと姿勢を崩したのはおれだった。
 危なかった。あともう少し目にしていたら、うっかり反応しちまうとこだろう。
 なんせ、朝のあかねは無防備極まりない。
(あんな格好見てたらなぁ)
 正直、ブラの線が透けるだの透けないだのはおれにとって些細な問題に過ぎなかった。
 いや、それどころかあかねの下着をそう易々と他の男に見せてたまるかってんでい。
 
「……あー、しんど」
 
 誰に言うでもなく独りごちる。
 おれの受難の日々は、まだ当分終わりそうもない。
 
 
 
 < END >



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comment (8) @ Omnibus 侮れない制服事情

   
彼が制服に着替えたら・前編  | 気まぐれ、ルビー 

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2018/06/30 Sat 00:13:40
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2018/06/30 Sat 13:19:05
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2018/06/30 Sat 15:22:41
Re: わぁい✨ : koh @-
ひ~コメント主様

1年4ヵ月前の私はこんなことを考えていたんだなって笑っちゃいました^^。
他に大学生編と社会人編もあるのですが、それに関しては更に「おおぅ……」と悶絶する恥ずかしさだったので大工事が必要になりそうです。といいつつ、自分の文章を直すってすごく手強くて結局は殆どそのままという……。
こりゃ完全に投稿する勇気を試されていますな(^^;。
何気ない高校生の日常ですが、制服の透け事情は意外と切実でしたからね。
ちなみに私の時代はラルフローレンのベストで隠すというのが定番中の定番(そして男子からは一斉にブーイングを浴びるw)だったのですが、きっと今は違うんだろうな……。
そんなアレコレ想像するのも楽しいです♡
2018/07/01 Sun 03:23:09 URL
Re: No title : koh @-
k~コメント主様

あちゃ~、白いポロシャツはなかなか危険ですよっ!
我が家も娘がいるので肌着はしっかり対応しちゃいます。真夏だろうが休日だろうが、スカートの下も短パンっぽいブルマもどきを履かないと外には出せません(^^;。
……って今でこそこんな厳しいオカンですが、自分が学生の頃は涼しさ最優先でした笑。
更には背も低いことからスカートも一番短かった気がします……ああ、たくましいあんよが汗。
学生時代ってしょっちゅう男子がこんなアホ話をしていて、どちらかというと女子がそれを冷ややか且つ冷静に見てましたよね。まさかそこで「おれは毎日あかねのノーブラ拝んでるぞ」なんて、そりゃ言えないはずですわ。
それにしてもあかねちゃん、罪深い……。(でも24時間ブラは流石に苦しいですよね)
昔の文面ッて言いたいことだけ簡潔に書いてあってちょっと新鮮でした笑。
2018/07/01 Sun 03:23:30 URL
Re: ありがとうございました!! : koh @-
m~コメント主様

ズドン=ずん胴=あかね。私も自分で読み返した時、まさかこう来るとは!と笑っちゃいました^^。
自分で書いてたはずなのに色々とおかしくてツッコミどころ満載です笑。
それがいくつもゴロゴロしてるんだから、もうカオスですよ……2カ月前に半分まで書いてある大学生編の続きですらもう読めない。←
こんな無駄なことばかりしています(^^;。
それにしても一つ屋根の下ってやっぱり美味しいですよね。自分はちゃっかりノーブラを拝んでるくせに、他の男子には透けブラさえ許さない乱馬。いいんです。それでこそ、好きな子を思う男の子ですよ。(にっこり)
あ、あと私も小学生の頃はセーラー服でした!小学生なんて肌着というか、シミーズの時代です笑。
懐かしいですよねえ。
この先のオムニバスは…「ああ、これは出しづらかっただろうなぁ」と生温かく見守って下さいぃぃ。
2018/07/01 Sun 03:28:49 URL
: 憂すけ @-
フフっ・・・可愛いなぁ・・・♡
他愛ない会話に、夏服と一緒に抜けるような青い空までが瞼に浮かぶようです。
朝のあかねちんの無防備なその刺激。
乱馬・・・お前は本当に幸せだな・・・!!
可愛い許嫁の素顔・・・それを目の当たりにしちまったら、それだけでもう深みに嵌まるしかないでしょう!!くっそーー!!ずりーぞ乱馬!!(; ・`д・´)
2018/07/11 Wed 14:11:50 URL
Re: タイトルなし : koh @-
憂すけさん

お久し振りです!そしてお返事が遅くなってしまってすみません。
これぞ、一緒のお家に住んでいる特権ですよね。
そんな透けた下着なんかじゃ物足りませんとも。(が、透けた下着。それはそれで興奮するに違いないw)
女所帯で育っているあかねちゃんはそこら辺のガードが甘い気がするんです。ふふふ////
ここはもっとあかねちゃんの魅力にはまってもらいましょう^^♡
2018/07/22 Sun 22:07:08 URL

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