先生にだって秘密はある ⑪恋ってきっと格闘技?(前編) 

2018/08/13
拍手には先日TwitterでUPしたイラストがあります。
この絵からこんな風に妄想が広がるんです……というお話。

 

先生にだって秘密はある11



「は…………?」
 辛うじて乱馬が発したのは、本当にただの一言だった。
 
 
 事は数分前に遡る。
 いつものように職員室ではなく保健室──いわゆるあかねの仕事場で寛ぐ乱馬の姿がそこにあった。
 ここはいい。なんせ煩わしい上司の目がないし、ばっちりエアコンも効いている。つんと消毒の匂いが鼻を突くが、それも慣れてしまえばどうってことはない。いざとなれば乱馬のフィールドでもある校庭にだって一瞬で移動できるし、もし誰かに二人きりでいるところを見られたとしても怪我の治療だと主張するのに体育ほど適した教科はないだろう。大体、学校では犬猿の仲だと噂さえ立っている乱馬とあかねだ。そのうちの約半分は演技、もう半分は本気であかねを怒らせているだけなのだが、妙な噂が立つより、ずっと身動きが取り易いというわけだ。
 
 何気ない会話だった。
 今日は終業式でやっと一学期が終わってホッとしたねとか、初めての教師生活はどうだった? とか。
 その一つ一つに相槌を打ちながら、さて仕事で一区切りついた今晩はどんな風にあかねを可愛がってやろうか、乱馬の頭の中は不埒な妄想でいっぱいだ。
 だからこの時もうっかり聞き流しそうになったほどで。

「明日ね、生徒達を相手に防犯訓練することになったんだ」

 さらりと打ち明けられたあかねの告白。「ふーん」と返事をしつつ、そういえばホームルームの前に男女に分かれて各々防犯なんちゃらのレクチャーがあったことを思い出す。わざわざ警察署から派遣される実演を交えた講習はなかなか迫力があり、体育館の舞台下から乱馬もそれを眺めていた。
 男子生徒向けの講義は主に三つの議題があり、ひとつは携帯電話を用いた犯罪への誘惑、ひとつは繁華街や夜遊びで犯罪に巻き込まれた時に最低限覚えておきたい対処と護身術だった。
 といっても何も大袈裟なものではなく、大声を上げる時は「あ」ではなく「お」の口で叫びましょうとか有効的な鞄の使い方とか、その程度のものである。それからもう一点、異性との性的行為に対する注意喚起──。
 本来ならばそれらは保健体育も請け負う乱馬が指導するべき事案だが、授業とはまた少しだけ種類が違う。いわゆる行為そのものではなく、美人局や売春など、己の意志に反して巻き込まれるトラブルへの警告が主となっていた。
 無論、そのありがたい講習を真剣に聞いている生徒など皆無に近い。みな自分には関係ないという顔をし、もしも犯罪に巻き込まれた場合もそれはそれでどうにかなると高を括っているのだろう。事実、乱馬が高校生の頃からこういった類の話を聞かされることはあったが、内容などほとんど聞いていない。そんなことより、良牙との決闘に備えた修行だとか今晩の夕飯のおかずだとか、そちらのほうが重要で。
 今にして思えば、当時の自分はなんて幼かったのだろう。異性に対する興味よりも強くなることへの執着心。もちろんそこであかねと何か進展があればまた違ったのだろうが、とにかく乱馬の青春時代の大部分は格闘と食い気という、つくづく色気のないもので占められていた。
 それにしても今時の高校生ってみんなこんなもんなのだろうか。それとも自分が知らなかっただけで、五年前から本質は変わらないのか?
 当時は高校生が携帯電話を持つなんて考えられないことだったが、この数年で世情は大きく変わり、今では十中八九みな携帯電話を所持している。更にはカメラ付き携帯電話が普及しだし、学校でもあちらこちらでシャッターを切る音を耳にすることが増えた。
 授業中の携帯電話使用は論外だが、問題はそんな単純なことではない。時に写真屋には現像に出せないような撮影をし、それをネタにいじめや売春行為に利用されるってんだから世も末だと呆れてしまうのは仕方のないことで。
 面持だけは真剣な表情を作り、壇上を見つめる生徒達の顔に視線をやる。
(こいつら、中身は幼くても体は大人にちけーもんなぁ)
 しかも明日からは待ちに待った夏休みだ。中にはこの間に名実ともに男になろうと鼻息荒くしている輩だっているだろう。そもそも年頃の男に対して「性に興味を持たず清廉潔白であれ」など、求めるほうが無茶なのだ。
 なんでもいいが犯罪紛いなことだけはしてくれるなよ。
 誰に言うでもなく心の中で念じると、幾度目になる欠伸を口の中で噛み殺したのがつい数時間前の話である。
 
「防犯訓練って具体的になにすんの?」
 べちゃりとだらしなく上半身を机に伏せ、視線だけあかねのほうに向ける。下から見つめられることにあかねが弱いのを知ってか知らずか、こういうところが実にあざとい男だ。
 更に言えばあかねの答えを聞かなくても大体わかる。なんせ格闘を嗜んでいるあかねと違い、普通の女子にできることなどたかが知れているのだ。それよりも普段の服装や足を運ぶ場所、深夜の外出を控えることのほうがよっぽど効果的だろう。
 それにしても──この数ヶ月、あかねときたら男子生徒のみならず女子生徒にも気軽に声を掛けられているシーンによく遭遇したっけ。結局のところ防犯訓練なんてただの口実で、あかねを交えて恋バナだのお喋りに興じたいだけに過ぎない。
(となると今晩あまり無理させるのはよくないか)
 いくら夏休みとはいえ、徹夜の腰砕けの状態で学校に行かせるのも酷だろう。少し残念ではあるが、あかねが生徒から慕われているならば全力で応援したい。
(仕方ねえ。今日のところは手加減してやるか)
 そんな、ともすると身勝手な想像を働かせた時だった。
「えっとね、暴漢に襲われた時の対処法を教えて欲しいんですって」
「……は?」

 待て待て、今なんつった?
 確か、暴漢っつったよな。いや、確かに自衛することは大事だし、事前の心構えも大切だ。それにしたって、か弱い女子高生が暴漢に襲われて冷静に対処出来ると思っている時点で男の乱馬としては複雑である。
「ほら、うちの高校ってバイトもオーケーでしょ? そのバイト先に強盗が入った時の護身術を教えて欲しいっていう生徒もいてね」
 いや、だからなんでそんなに話が飛躍するんだよ。バイト先に強盗だと!? そんなの、男女関係なく大人しくしていたほうが得策に決まっている。
「あとはね、ひったくり犯を捕まえるのにはどうしたらいいかとか」
 ……そういえば先日、高校生がひったくり犯を捕まえて表彰されるなんてニュースがあったな。
 といってもそこでテレビ画面に映ったのは可憐な女子高生ではなく、いかにもむさ苦しいという表現がぴったりの男子高校生で。逃げる犯人を追い、後ろからタックルをしたと誇らしげに答えていたっけ。
 それにしても、だ。
 じゃじゃ馬気質のあかねならいざ知らず、こんなに血の気の多い女子生徒がうちの学校にいるとは驚きだ。しかもそれが一人や二人ではない様子から更に驚嘆する。
 十代の若い衝動が時に誤った方向へ正義感を暴走させてしまうのか。言っとくが現実はそんな甘いもんじゃねーぞと心の中で突っ込みつつ、あかねの話を聞くもどうも話が噛み合わない。
 最初はまさかと思った。いくら鈍いとはいえ、まさかな。そんなわけあるはずない。ないけれど。
「あのよー。一応確認だけど、その防犯訓練する相手って女子生徒だよな?」
 当たり前でしょ、バカ! って。
 そう返ってくるものだと信じていた。が、そこで耳にしたのは信じられない一言で。

「やあねえ、女子がそんなこと頼むわけないじゃない」
「は…………?」

 言葉の意味がわからずポカンとすると、「あのね」と嬉しそうにあかねが頬を綻ばせる。
「この前、保健室に来た生徒達と話しているうちに格闘の話になったの。えーっと、確か柔道の授業で怪我した治療をしてた時だったかしら? なんでこんな火傷みたいに擦りむいてるのって聞いたら寝技がどうとか言い出してね。とにかく、その時にあたしの家は道場があるって言ったらみんな目を丸くして驚いたのよ」

 要はこういうことだ。
 実家が道場を経営している。
 あかねも格闘を齧っている。
 天道先生、すごい。今度教えて!
 そうやって煽てられ、まんまと真に受けちまったのがこのウルトラスーパー鈍感女というわけか。

 男子生徒にしてみたらチャンスを虎視眈々と狙っていたのだろう。そこへ飛び込んできた今日の防犯演習に、「これだ!」と食いついたのはまず間違いない。
 大体なんだよ、防犯訓練って。加害者役になるにしろ被害者役になるにしろ、指導するってことは当然生徒達と組み合うことになるわけで。
 いくらあかねが並みの女ではないといえ、道着姿で複数の男を相手に? 
 冗談じゃねえ。想像するだけで身の毛もよだつとはこのことだ。口実だけの防犯訓練ははたして誰のためのなのか、そんなのちょっと考えればすぐわかるじゃねえか。
 ムカムカと言いようのない吐き気が込み上げてくる。当然ながら、そんなふざけた話を聞いて容認出来るはずもない。
 速やかに。それでいてきっぱりと断言する。
「やめとけ」
「え?」
「おめーがあいつらに何を教えられるっつーんだよ。恥かく前にやめとけ」
「なによその言い方。恥かく前ってどういう意味?」
「どうもこうもそのままだろーが」
「ちょっと!」
 悪気はなかった。
 ただ、甘過ぎるあかねの考えをあらためさせたい。それだけで。
「言っとくけどな、おれだって柔道の授業で実際に使える技の一つくらい教えてるんだぜ? おめーの出る幕なんかねえっつーの」
「失礼ねっ! あたしはあたしでもっと違う格闘を教えてあげられるもの!」
「へえ。たとえば?」
「え?」
「力任せに殴って蹴って、人を空に放り投げるのが“格闘”ってか」
「……もしかしてバカにしてるの?」
「おっ。鈍いあかねにしてはよく気付いたじゃねーか」
「な……っ、」
「闇雲に投げ飛ばすだけのおめーが一体何を教えられるってんだよ」
 言い方は悪かったのかもしれない。いや、きっと悪かったのだろう。これでも乱馬にしてみたら言いたいことの半分以上は飲み込んでいる。
 本来ならなぜダメなのか、はっきり突きつけてやればいいだけの話だ。が、あかねにとっても可愛い生徒を疑われ、素直に耳を傾けるとは思えなかい。何より本人が自覚を持たなければ根本的な解決にはならない以上、考えるのはあかね自身だ。そして今はそんな悠長な話をしている場合でもない。
 それにしてもいつもの挑発に棘を十倍足した乱馬の物言いはあかねを苛立たせるのに充分だった。
 幼い頃からあかねなりに積み重ねてきた努力の結晶が格闘であり、その尊い存在を頭ごなしに否定されればムキになるのも当然で。
「さっきから聞いてれば随分な言い方ね。乱馬にあたしの何がわかるのよ!?」
「あーわかるね。自分の気ぃひとつコントロール出来ねーでいつもやられっぱなしだったのはどこのどいつでぃ」
「やられっぱなしって?」
「あれ、もう忘れちまったのか? 高校時代、シャンプー相手に散々手こずってたくせによ」
「っ、あれは……!」
「おれが何度助けてやったと思ってんだよ。ったく、これで格闘家だなんてよく言うぜ」
「た、助けてくれなんて一言も頼んでないじゃない! あたし一人でだって充分、」
「バーカ。あかね一人だったら殺されてたかもしんねーんだぞ!? 現にあっさりバック取られて記憶喪失になるわ人形みてーに操られるわ、それで偉そーなことばっかぬかしてんじゃねえよっ」
 よりによって今ここでシャンプーの話を持ち出されるとは。大人になった今では良き友人の一人であるが、その前にライバルであり最大のコンプレックスでもある存在。それがあかねにとってのシャンプーであり、乱馬が考える以上にしこりは大きい。
 ぎゅっと握りしめた手は真っ白になり、爪が肌に食い込む。しかし、そうでもしていないと涙が込み上げてきそうだった。声が震えないよう、あかねが気丈に言い返す。
「そんな……、なにもそこまで言わなくったって、」
「なんだよ、なにも間違ったこと言っちゃねーだろうが。大体なぁ、いくら女傑族とはいえ一人の女相手に苦戦してるようなおめーから教えを乞うほどおれの生徒達は落ちぶれちゃいねえっての」
「はっ」と吐き捨てるように笑うのはトドメだった。
 いいからバカな考えはあらためろ。
 それは乱馬なりの心配を不器用に表したに過ぎない。何も本気でシャンプーに劣っていると思わないし、いざという時の瞬発力と気持ちの強さは男の乱馬でも目を見張るものがある。しかし、ここでそれを言ったらまた話は振り出しに戻ってしまう。そしてここまで険悪な雰囲気になってあっさり頷けるほど、あかねも素直ではなかった。
「……………………ひどい」
「あ?」
 不機嫌さを隠さない乱馬に、あかねが一言絞り出す。
「なにもそんな言い方しなくったっていいのに……っ」
「おめーがバカなことばっか言ってるからだろ」
 この期に及んでまだ冷たく突き放す乱馬の言葉から愛情を感じるなど、到底無理な話だった。
「あ、あたしはただ、生徒達に頼まれたから少しでも役に立とうと思って、」
「本当に役に立ちてーんなら頼まれた時点で断れよ。それが無理ならおれに相談すればいいだけの話だろ!?」
「嫌よ、頼まれたのはあたしだもん! あんたの力なんか借りたくないっ」
「よく言うぜっ、今まで散々助けてもらっといて言う台詞がそれか!? 自惚れんのもいい加減にしろっ!」
 あかねの頬にカッと朱が走る。
 怒り。
 悲しみ。
 何よりあかねを辱めたのは、図星を指されたことだった。
「いいか? 今ならまだそいつらも学校にいるかもしんねえ。いなけりゃ電話して、とにかく明日の話は断っ──」
「嫌よ。断らない」
 それは一ミリの譲歩も許さない拒絶だった。
 睨み付けるように乱馬へ視線をぶつけ、きっぱりと言い放つ。いつもは白衣のポケットに入れっぱなしの手は腿の横で小刻みに震え、ぐっと拳を作っている。
「あんたになんと言われようと構わないわ。あたしは生徒達との約束を守るだけ」
「おま……っ、まだそんなこと言ってんのか!? いいから断れって」
「嫌っ! 絶対断らない!」
「あかねっ」
「知らないっ!」
「あかね!」
「なによ、偉そうに指図しないでっ!」
 叫ぶと同時に乱馬の手をバシッと払い退ける。
 そこに恋人同士の甘さなど、微塵もない。
「いい!? 頼まれたのはあたしなの! 護身術を教えてくれってあたしを選んだのはあの子達なのよ!?」
「……それ、どーゆう意味でぃ」
「言わなくちゃわからない? あんたの授業が物足りないから頼んできたんじゃない!」
「な……っ!」
「なのに自分のことは棚に上げちゃって、言っとくけどあたしだって高校の時よりずっと強くなったんだからっ」
「それは大学ん時の話だろ!? 今なんか仕事に追われてろくすっぽ鍛えてもねーじゃねえかっ!」
「そんなことないもん! 今だってちゃんと週末道場で汗を流して」
「あほっ! んな付け焼刃みてーな運動で格闘家気取りすんなら格闘なんかやめちまえっ!」
「っ!」
 し……んと部屋が静まり返る部屋に、激しい剣幕で声を荒げた乱馬の罵声が木霊するようだった。
 びりびりと震える。やがて余韻は白い壁に吸い込まれ、静寂がやってきた。
 何もない、針を落とす音さえ聞こえてくるような無の世界──
 
 ぎしりと鈍い音がする。それはあかねが椅子から立ち上がった音だった。
「……………………出ていって」
「は?」
「聞こえなかった? 今すぐこの部屋から出ていって!」
「あかね、いいからおれの話をちゃんと聞けって、」
「早乙女先生! 今すぐ出ていかないなら業務妨害で教頭に言い付けますよ!?」
「あかねっ」
「気易く名前で呼ばないでください!」
 この細い体のどこにそんな力があるのだろう。
 勢い任せに乱馬の腕を取り、そのままドアの近くまでぐいぐいと引き摺っていく目には涙が溜まっていることなど、乱馬が気付くはずもなかった。
「さよなら。明日から良い夏休みを!」
 無論、それが本心なわけない。
 一語一句区切って厭味ったらしく言い放つと内側からガチャリと鍵を回す。
 いくら乱馬といえど学校の扉を破壊するわけにもいかず、放課後の穏やかな時間は最悪の形で幕を下ろした。
 
 
 *
 
 自宅に帰っても気持ちが晴れることはなかった。
 そろそろ風呂に入る準備をしようと思いつつ、どうにも億劫で体が言うことを聞かない。
 自室のベッドの上でゴロリと寝返りを打ち、あかねは天井を見つめる。
 目を閉じても閉じなくても、思い浮かべるのは怒りを露わにした乱馬の表情で。
 
 ──シャンプー相手に散々手こずってたくせによ
 
 そうよ。だから必死で稽古を積んできた。
 なのに。
 なのに…………。
 
 ──恥かく前にやめとけ
 ──鼻息荒く無鉄砲に仕掛けるだけ
 ──そんなあかねに何が教えられるってんだよ
 
 乱馬だけはわかってくれていると思っていた。
 自分を認めてくれていると思っていた。
 その信頼がガラガラと音を立てて崩れていく。
 
 ──自惚れんのもいい加減にしろっ
 
 自惚れ、なのだろうか。
 生徒の役に立ちたいという思いは、こんなにも責められなければならないことなのだろうか。
 
 ──今なんか仕事に追われてろくすっぽ鍛えてもねーじゃねえかっ!
 
 ……確かにその通りだった。
 認めたくない現実は誰より一番あかねがわかっている。
 だからこそ、乱馬にだけは言われたくなかった。
 
 
『付け焼刃みてーな運動で格闘家気取りすんなら格闘なんかやめちまえっ!』
 
 雷鳴の後のように鼓膜を震わせる乱馬の罵声。
 ごろりとまた一つ寝返りを打つ、緩慢な動きは自身の身体が酷くなまっているような錯覚に陥った。
 悔しい。
 悔しい。
 悔しくて堪らない。
 なのにどうしていいのかわからなくて。
 ……いや、違う。これはただの言い訳で、本当はどうしたらいいかなんてとっくにわかっていた。だけど素直に認める気にはどうしてもなれない。
 生徒達と約束した日時は明日の十時だ。
 それまでに体をほぐし、日常で使える素人でも取り入れやすい動きを確認しておいたほうがいいのだろう。けれど身体はともかく、気持ちがそこに向きあわない。
(……とりあえず、お風呂の前に少しだけでも道場で汗を流そうか)
 体を動かしているうちに気持ちが晴れることだって大いにある。普段はあまり細かいことに気を取られない分、こんな時は踏み切るまでがやけに億劫だ。それでもなんとか勢いをつけて立ち上がり、クローゼットの前に移動する。
 思えば先週は保健便りの作成に追われていたことから、道着に身を包むのは二週間振りになるかもしれない。
 

 ──付け焼刃みてーな運動で格闘家気取り
 
 再び、乱馬のバカにする声が聞こえてくる。
(なによ…………なによ、なによっ!)
 頭の中の雑念を拭うように首を振る。
 一番端にある箪笥の中から乱暴に道着を手に取るのと玄関の呼び鈴が鳴るのは、ほぼ同時だった。
 
 
 
関連記事
comment (4) @ 社会人パラレル 先生にだって秘密はある

   
先生にだって秘密はある ⑫恋ってきっと格闘技?(後編)  | 先生にだって秘密はある ⑩回答は慎重に 

comment

管理人のみ閲覧できます : @
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2018/08/13 Mon 17:01:13
Re: 続き楽しみにしています! : koh @-
m~コメント主様

女子生徒からするとあかね先生って最初ちょっとやっかみがあって、だけど話してみたらイメージが変わり、なんだかんだで甘えたくなる先生というよりお姉ちゃんみたいな存在なんじゃないのかなって。
あかねちゃんにとっても自分が末っ子ゆえ、周りから頼られたら喜んでなんでも引き受けちゃうタイプかなぁと。ソースは末っ子の自分です笑。(見た目と中身が全然違う悲しみ…涙)
それにしても、自分で書いておきながら今ここでシャンプーの話題を持ちだすかっ!?って思っちゃいました。きっと乱馬にしてみたらあかねを止めたい一心でわざと屈辱的な台詞を選んでいるふしもあると思うんです。
でもあかねちゃんにとっては辛いですよね……。
(コメント主様のコメントを拝見してから更に少しだけ加筆しちゃいました。鬼か)
あ、あと拍手のイラスト!こちら、Twitterでコラボさせたいただいたぶぎゅるさんとちびっこ道着の話で盛り上がり、昔懐かしい息子の道着姿の写真を引っ張り出しちゃいました。
この頃は体格も勝負も負けていたりするとかわいいですよね♡
そう、この頃の二人はまだ知らない。人はいつしか純粋だけではいられなくなることを……。(突然の予告w)
2018/08/14 Tue 19:41:18 URL
学校に居るかの様です! : 憂すけ @-
凄いなぁ。前回の、テスト問題を作る乱馬からずっと思ってましたが、とても真剣ですよね。とても真剣にこの世界を作り上げていっている。何処にも手を抜いた跡が見えない。的外れな感想でゴメンナサイ。とことん、リアルに感じる二人の会話に引っ張られて行くんです。もし、あの原作の後数年後が見られるのなら・・・そんな気持ちを抱えたままずっと拝読して居ります。あ!あと拍手乱あちゃんもメッチャ好きです!いつかお手隙の時間のある時にTwitterでの約束通りあたしにも是非貸してください!!<(_ _)>(←ここで言うか) 

不器用な乱馬の言い分も分かるし、それに傷付くあかねちんの心も分かる。想い合うからこその・・・何ていうんでしょう、ズレ?・・・うん、それだ!
歯痒さを楽しみつつ後編へ続く!!(・ω・)ノ
2018/08/16 Thu 15:13:33 URL
Re: 学校に居るかの様です! : koh @-
憂すけさん

ありがとうございます。テスト問題に関してはわりと実体験を元に真剣に考えました。
先生だって人間で、だから当然早乙女先生と天道先生も人間くさくて。
いくつになっても(良い意味で)大人になりきれないままでいて欲しいです^^。
そして今回、格闘に対する痛烈なダメ出し。でもこれも乱馬なりの愛情で、何より格闘に対してだけは乱馬も信念を持っているぶん甘い顔はしないんじゃないかな、と。
本当は自分が何度も守られてきたこと、人の芯からあかねが強いことを乱馬も認めていると思います。でもそれはそれ、これはこれ。
黙ってなし崩しになるのではなく本当に大事なことはきちんと向かい合う、それが私の中にある乱あ像です^^
2018/09/10 Mon 00:50:27 URL

コメントを送る。

URL:
Comment:
Pass:
Secret: 管理者にだけ表示を許可する